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趣味の人生を楽しむサラリーマンの日記

「スリー・ビルボード」(ネタバレあり)

スリー・ビルボード201811

(ネタバレあり、としていますが、ストーリーにはほとんど触れずに以下、書いています。ただし、この映画は白紙の状態で観た方が良いと思います)

原題は「Three Billboards Outside Ebbing, Missouri」。

レイプ惨殺された娘の操作が進んでいないことに業を煮やした母親が、町外れの看板に抗議の意思を掲示して闘う、という紹介をされているこの映画。そうか、怠け者である警察と闘う強い母親の話なのか、と勝手に想像していたら警察署長が人格者で周囲の信頼が厚く、決して怠けて操作が進んでいないわけじゃない(んだろう)とわかってきてから、おや、これはちょっと思っていたのと違う話だぞ、となってくる。

いや、ストーリーとしてはその通りなんだけれども、主要登場人物や周囲の人物、彼らが生活している街の設定がしっかりしていて、その描き方が実に緻密で複雑。1つの田舎町と限られた登場人物だけで、

●人間が持つ善良さ
●人間の愚かさ
●差別主義者の人間性の酷さ
●収まりのつかない感情が招く行動の愚かさ
●復讐の連鎖の虚しさ
●愛すべき家族への愛情のかけ方の難しさ
●他人を手厳しく批判できるほど人間は完璧ではないこと
●純粋な心がもたらす善き行動と悪しき行動

といった、人間の業をえぐり出し、あぶり出し、表現してしまう。どの登場人物も感情移入できるような人はおらず(署長はできすぎていて親しみを感じない)、ああ、この人はこんなことをしてしまう残念な人なんだな、と思いながら観て行くことになる。

これが初の長編映画というマーティン・マクドナー監督、カメラワーや編集、演出、ストリーの見せ方などが良く練られていて、とてもレベルが高い。とにかく脇役を含めて登場人物に一切のムダがなく、どの人物をどう見せてストーリーの中枢を表現して行くかの構成が巧い。

また、どの役者も演技が素晴らしい。気丈に警察に抗議するミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、時折弱気になったり、恐れを抱いたりするところを、ほんの少しだけ垣間見せる表現が巧いし、ただのイカレ差別主義者に見えるディクソン(サム・ロックウェル)は実は単に精神的に幼くて純粋すぎるだけの青年であるところまで表現しきれていた。ミルドレッドの元夫のガサツな人物表現と、ジェームズ(ピーター・ディンクレイジ)の雑に扱われ続けた人生から漂う諦観も巧い。

なんにしても、この映画ほど人間の持つ素晴らしさと愚かさをたっぷり描いている作品はそうはない。これだけ人間の持つ複雑な要素を描写しておきながら詰め込み過ぎな印象を抱かせないところも素晴らしい。

最後のシーンは、ミルドレッドもディクソンも実は内心では「こんなことをしても虚しいだけ」と悟っていることが垣間見えていて、恐らく目的を達成させずにそのまま引き返すであろう、と思わせる。決して良い話ではないこの映画、観終わったあとにどこかスッキリするのはそんな2人の雰囲気から、この先、2人はきっと立ち直って行くだろうと思わせるからであるように思う。

映画ファンであれば是非見ておきたい作品。この監督は今後も要注目です。

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