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趣味の人生を楽しむサラリーマンの日記

「ルーム」(ネタバレあり)

ルーム201704


ブリー・ラーソンがアカデミー賞主演女優賞を獲ったことで有名になったこの映画を、ほぼ予備知識なしで鑑賞。

なんとなく事前に勝手に想像していたストーリーと偶然にもほぼ同じ流れ。でも、どうやって「ルーム」から逃げられるかが主題だと思って観ていた人が世間では結構多かったらしい。

日本でも何年もの長期に渡る軟禁事件というのは過去に何度かあった。そのとき思うことは、社会から何年も、場合によっては10年以上も隔離されていた人間が社会に戻るストレスを想像することの難しさ。人間を描くのだとしたらやはりこの部分にスポットを当てるのは自然なことで、だから勝手にそういうストーリーを予想していたのかもしれない。

その過程を描くことがこの映画の本質だから、ストーリーが予想通りだったから映画がつまらなかったなんてことはもちろんない。むしろ奇抜なストーリー展開やどんでん返しがないからこそ、単なる脱走モノに陥らない人間の心情を描くことにフォーカスすることができる。

ブリー・ラーソンは十分に演技力も存在感もある女優で、彼女だからこその母親が表現されていた。ただ、「ショート・ターム」での、弱さと強さを兼ね備えた複雑な人物を演じた彼女の実力からすると、このくらいはできて当然という想定範囲の演技だったように思う。もちろん、だからと言ってこの映画での彼女が物足りないということはまったくないけれど。

この映画では、生まれたときから「ルーム」でしか生活したことのないという子供がいる。この子の演技力が素晴らしい。いや、素晴らしいを通り越して神がかっていると評しても言い過ぎではないと思う。ブリー・ラーソンの演技で成立している映画なのかと思ったら、むしろ子供の存在とその演技こそがもっと重要な要素になっている。軟禁している男への恐れ、母親への尊敬や甘えなどが入り混じったいかにも子供らしい態度、クライマックスのひとつとも言える脱出して初めて見る外の世界に接したときの、戸惑いや衝撃などが入り乱れた複雑な心情の表現に圧倒されてしまう。大人ですら想像することができない、生まれてから5年間社会に接していない子供の立場や心情を演じて、何の違和感も持たせない演技なんてそう簡単にできるものじゃない。

僕は昔から、日本の俳優の演技が(ごく一部を除き)どうしてこうも揃いも揃って下手なんだろうと思っていた。いや、下手というより稚拙で子供っぽいという言い方の方が適切なのかもしれない。思うに、自己表現が得意でない日本人というのは映画やドラマで演技することじたいが苦手なんじゃないだろうか。もちろん日本にも古来から歌舞伎や能といった演芸(それらより大衆的にした時代劇)はある。これらは現実とはまったくの別世界、リアリティとかけ離れた(リアリティを追求していない)独自の世界になってる。そういう別世界の作られた世界を演じることはできるけれど、現実の世界を舞台に演じるとなると明け透けに自分の内面を表に出さなくてはならず、恥じらいを捨てることができないんじゃないだろうか。欧米人はそういう自己表現に戸惑いがなく、役者になろうとする人であればむしろそれを得意とする。そういう欧米の俳優と同質の演技ができる日本人俳優は、渡辺謙をはじめとするごく少数しか思い浮かばない。

そうした傾向は、演技とは何かなどと考えるほど成熟していない子役に特に顕著に現れ、日本人子役と欧米人子役との埋めがたいレベルの差となって表面化しているように思える。欧米と日本における「演じる」ことへの根本的な質の違い、根底に流れる表現に対する思想、価値観の違いがそのまま子役のレベルの差になっているように思う。映画やドラマにおける現代劇の演技は、欧米の文化であって日本にはそもそも存在していないし、育つ土壌もなかった。

もちろん「誰もいない」のような抑揚のない映像と演技で見せる秀作は日本の映画にもある。ただ、欧米、特にアメリカの映画は現実を舞台にしつつも外連味を加えた作品として作られていて、淡々と見せるだけでない娯楽に仕上げており、そういう作り方は日本人の気質に合っていないような気がしてしまう。

音楽について、日本人は何を演っても演歌になってしまうと書いたことがあるけれど、演技についても控えめを美徳とする日本は独自のものになっていてその差が出ているんじゃないかな、というのが漠然と抱いている僕の感覚。もちろん、どちらが良い悪いという話ではないけれど、(シリアスな内容であったとしても)映画を娯楽と捉えるのであれば、アメリカ映画のような多様で彫りの深い、豊かな表現はさすがだなと思わずにはいられない。

そんな、なんとなく思っていたアメリカ娯楽映画の特質、演技のことを、この重々しい映画で明確に意識させられることになったのでした。

それにしても、女優として開花する人というのはそれ以前からさすがの演技をしているもので、ブリー・ラーソンは下ネタコメディの「ドン・ジョン」で少ない出番ながら妹役を強烈な存在感で演じているし、ジェニファー・ローレンスも「ウィンターズ・ボーン」を観れば将来どんな女優になるんだろうと思わせる演技と存在感がある。役者の底力という点ではやはりアメリカという国は大したものだと脱帽するしかない。

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