ネットワークプレーヤー YAMAHA WXC-50導入 - Squeezebox Touch の代わりに成り得るのか
(3/31にコントロール・アプリについてのコメントを修正しています)
【前口上】
僕のオーディオ機器への考えは所謂マニアとはかなり違うので最初にお断りを。
アンプ、プレーヤー、スピーカー(ペア)をどのくらいの割合で予算を分けるか、という話がオーディオ初心者向けの本にはほぼ必ず書かれていて、そこには1:1:2くらいの比率がお約束のように謳われています。しかし、僕に言わせてもらうなら音の9割を決めているのはスピーカー。スピーカーは、再生能力だけでなく音の傾向や特徴がメーカーや(同じメーカーでも)モデルによってまったく異なる。あたかも人間の声が人それぞれいろいろな特徴を持っているのと同じようにスピーカーは製品ごと個性があり、同じCDが描き出そうとしている音楽が場合によっては別物に聴こえるほど音が違っているものです。アンプやプレーヤーは、とりあえず音が出ますというエントリー機からのグレードアップでもない限り、音楽の聴こえ方が変わるほどの違いは出ることはなく、せいぜい、低音の厚みが少し増した、のような違いしかない(オーディオ・マニアはその微細な違いが楽しくて、大きな違いがあるかのように発言する)。冷静に考えれば当たり前のことで、音を出しているのはスピーカーであり、アンプとプレーヤーはスピーカーを鳴らすための下僕にすぎないわけですから。
まだ技術が成熟していなかった昔(70~80年代前半)は、アンプ、レコード・プレーヤー、スピーカーそれぞれに、今の製品にはない特徴や使いこなしのお作法があり、お作法の習得と知識の蓄積に基づいた製品選びや使いこなしで自分のオーディオの音が良くなることを実感することができたものです。また、当時の平均的収入のサラリーマンでアンプに20万円を投資できる人が多くいたとは思えず、10万円以下のものでささやかに楽しんでいた人が多数派だったはず。さすがに5万円以下のクラスのアンプになると音質はもうひとつで、そこから上位モデルに買い換えると団地住まいのオーディオ環境でも確かな音質向上を実感できたものでした。しかし20万円を超える領域に入ると、それほど大きく音質が向上するわけではないことは実は多くのオーディオ・マニアがわかっていることです。
工業製品というのは、エントリー・クラスの製品はあくまでも最低限の機能を果たすだけで、そこから少し価格を上げて質に気を配った製品になるとクオリティが明確に上がるケースが多いものです。この領域が一番、レベルの向上を実感できるレンジで、経済的に今ほど豊かとは言えなかった昔(70~80年代前半)で当てはめると、当時一般的だったエントリー・クラスからミドル・クラスへのアンプのアップグレードは音質向上を実感しやすいものだったことが想像できます。お金をかければ音が良くなる、という認識は、大卒初任給が12万円の時代だったからこそ定着した概念だったんじゃないか、と僕は思っています。しかし、今は学生でもその気になれば20万円以上のアンプが買えてしまう。そもそもアンプというのは、新しい技術でもなんでもないアナログ回路で構成された、現代においてはもう完全に枯れた技術で成立した製品でしかない。優れたテクノロジーは徐々に下位モデルに降りて行くのも工業製品の慣例。だから今は10万円のアンプでも、結構良い音質が得られるようになっています。高級機(超大出力機と言い換えても良い)が今でも優位と言えるのは大音量でも歪なく再生する能力で、しかしその差は、防音完備の専用ルームで爆音で聴かなければ実感することは難しい。恵まれた視聴環境で聴いている人でもなければ、アンプに大金を投じるのは自己満足の世界でしかなくなってしまっていると思います。
CDプレーヤーは更に音質への影響が小さく、微小と言っても良いくらいに、機種ごと、価格帯ごとの音質差が少ない製品です。かつて、自宅の(父の)オーディオで、アンプやレコード・プレーヤーのカートリッジのグレードが上がったときに「やっぱり高いものはイイ音がするなあ」と実感していたのに、CDプレーヤーは9万円、15万円、25万円とグレードを上げても「別に音質変わらないけどなあ」と学生時代のときから僕は思っていました。自分でオーディオ機材を揃えるようになってからも現在使っているパイオニアのユニバーサル・プレーヤー(1.5万円)と60万円の海外製CDプレーヤーを聴き比べて、やはり音質の違いを感じることはありませんでした。厳密に言えば、僅かな違いを感じることはないではなかったけれど、良し悪しというよりは傾向の違いでしかないばかりか、ブラインドで当てる自信を持てるほどの違いもなく、有意な差、より豊か音楽を表現できるようになったと言えるような差はなかった。そもそも、デジタルで記録された音声データをアナログに復元して信号に変える技術など、新しくもなければ高度なわけでもなく、高級機は回路の作り込みが、というオーディオ・マニアの常套句であるアナログ回路もすっかり枯れた技術でしかない。いずれにしても職人的なノウハウが幅を利かせたり、斬新なテクノロジーが入り込んだりする余地なんてほとんどないほどの汎用技術でしかなく、そこに有意な差が生まれないのは当然のことでしょう。これはネットワーク・プレーヤーについてもまったく同じことで、いろいろと機材の違いを嗜みたいというオーディオ・マニアの思いとは裏腹に、現代のデジタル再生プレーヤーはどれであっても高いレベルの音質で音楽を再生することができるし、良い意味(高いレベル)で画一化していると思います。
その昔、AirMac Expressが話題になりはじめたとき、オーディオ・マニアに「あんなオモチャが」と軽くあしらわて、音も価格なりという風潮がありました。しかし、ビット・パーフェクトでデジタル出力される事実が判明すると、音質を悪く言う人が減少、そうかと言って一度音が良くないと貶めたものを持ち上げるわけにもいかず、それまでにないオーディオ機器であるAirMac Expressは、重厚長大高額品を崇めるオーディオ・マニアにとって認めたくない、彼らの概念にとって都合の悪い製品になりました。するとどうなるかと言うと、この世になかったかのように無視をするようになります。自分にとって都合の良い情報はより都合よく解釈して取り込み、都合の悪い情報はなかったことにするのが人間という弱い生き物(参考:確証バイアスhttps://matome.naver.jp/odai/2142543511529739101)で、それを自覚している人は少なく、ネットで意見を発信している(したがる)オーディオ・マニアたちに限定すれば90%以上がその「弱い生き物」であるんじゃないかと僕は見ています。
WXC-50は、安価でコンパクトな製品なので、きっと音質が良いと評価するオーディオ・マニアはいないでしょう。実際に使ってみて、デジタル系音楽再生機として音質は十分優れているとまずは言っておきます。「プレーヤーなんてどれでもほとんど変わらない」が持論の僕からすると、通常コンポサイズ(43センチ幅)の大きな筐体で、それなりに立派な値札をぶら下げている、それでいて機能的にはたいしたことがない(黎明期にはギャップレス再生すらできなかった)ネットワーク・プレーヤーが多く、歴史の浅いカテゴリーの製品であるにもかかわらず、古いオーディオ価値観に凝り固まった恐竜のようなものしか市場に出ていない。市場規模が縮小一途のオーディオ業界が、ネットワーク・プレーヤーという21世紀に入ってからの新カテゴリーの製品を旧来の価値観でしか商品化できないのを見ていると、旧態然としたオーディオ・マニアを相手にしなければ商売が成り立たない業界の悲哀を感じてしまいます。
部屋とセッティングという要素を除くと、オーディオはスピーカー選びが9割。アンプや、ましてやプレーヤーなんてどれを使っても大して変わりはしない(聴こえてくる音楽の世界が変わるというほどのものではない)、というのが僕の考えです。検索してこのページに辿り着いた方は、YAMAHA WXC-50がどのくらいネットワーク・プレーヤーとして音質が優れているか知りたいと思って訪れた方もいらっしゃるだろうと思いますので、前口上を長々と書きました。
【導入背景】
ヤマハも旧来の価値観から成るネットワーク・プレーヤーは既に販売していたものの、ようやく「安くてコンパクトで普通にイイ音が出る」ネットワーク・プレーヤーを作り、販売してくれました。それがWXC-50。注文した2016年12月23日時点ではどこのショップでも在庫切れで、到着までにおよそ3ヶ月弱も要したのは恐らく想定よりも注文が多かったからなのでしょう。お手頃で一定の機能を備えたネットワーク・プレーヤーを求めていた層はそれなりにいたようです(デノンからも似た製品が出るとか)。
実は、Squeezebox Touchを既に6年使っていて、コントロール・アプリiPengとの組み合わせての機能(と音質)にはほぼ100%満足しています。アナログ出力に限って言うと大音量での歪がやや目立つところはあるものの、マンション住まいでの許容を超えた音量での話。通常はDACを介して聴いているのでそれも問題というわけではなく、他のネットワーク・プレーヤーを特に必要としているわけではありません。しかし、Squeezeboxは2012年でディスコンになってしまったため、今後永続的に使い続けて行くには何かと懸念があります。機器は壊れたら終わり、サーバー・ソフトも今後のPC、NASの環境でいつまで使えるかわからない。40,000曲のライブラリを今後もずっと使い続けることができるようにするためには、できるだけ汎用のDLNA規格で利用できるネットワーク・プレーヤーがあってくれた方が望ましいんじゃないかなとずっと思い続けていました。しかし、前述の通り、市場には音や機能が特別優れているわけでもないのに、旧態然とした無駄に高価で大きな筐体の製品しかなく、試そうという気になれるものがなかったんです。
そこに現れたのがYAMAHA WXC-50。拙宅の狭いリビング事情においては、筐体が小さく、縦置きにも対応してスペースを取らないところがまず嬉しい。43センチ幅のコンポサイズに囚われず、ネットワーク・プレーヤー(デジタル入力なども備えていてプリアンプとしても使用できる)はこの程度のサイズで十分という潔さが良い。デジタル出力が2系統(光、同軸)、アナログ出力も備え、無線LANにも対応するところはSqueezeboxと同等で不足はありません。そしてFLAC/AIFF/WAVは24bit/192KHzまで対応(ALACは96KHzまで)、ネットワーク規格ではAirPlayやBluetoothに対応しており、DSD(個人的にはまったく興味ない)を除いてギャップレス再生もできるという、イマドキのネットワーク・プレーヤーとして最低限必要とされそうな基本的な項目はほぼ押さえてあります。
【ようやく本題】
早速QNAPのDLNAサーバーを稼働させてみる。コントロール・アプリMusicCastをインストールし、その流れに従って行けばWXC-50のネットワーク設定は簡単に終了。無線LANの設定をしたことがある人なら戸惑うことはないでしょう。
アプリMusicCastの操作性は軽快で良好、ホーム画面にはSpotify(ただSpotifyアプリを起動するだけ)、radiko、AirPlay、Server、NetRadio、Bluetooth、USB、AUXといった音源ソースごとのアイコンが並んでいてわかりやすい。家中の対応機器をトータルで管理、操作できるため、対応機器を各部屋に置いてネットワーク・オーディオ環境を家中で利用たいという人には更に利便性が高くなるという付加価値もありそうです。
さて、ここからいよいよ QNAP NASにライブラリを置いた環境での SqueezeBox Touch+LMS(Logitech Media Server)+iPeng との比較になります。
SqueezeBox Touch+LMS+iPeng でできることで僕が重視していることは以下の項目です。
[1] ライブラリー管理のしやすさ(曲を追加してから聴けるようになるまでの簡便さ)
[2] ディスク番号、アルバム・アーティスト、作曲者タグに対応していること
[3] ジャンル → アーティストの階層でそのジャンルの全アルバムが表示できること
[4] iPadアプリで曲をブラウズするときの文字表示量が多いこと
[5] 再生中の曲へのアクセス、操作が簡単で情報が見やすいこと
iOSデバイスを筆頭にアルバム・アーティストに対応しているデバイスは、アーティスト一覧ではアルバム・アーティストでの表示になり、アーティスト名を表示しないケースが多い。両方に対応しているものでも、設定で選んでどちらかの表示しかできないことが多いようですが、LMSは両方とも合わせて表示してくれます。例えば、ラファエル・クーベリック指揮のベートーヴェン交響曲全集は、9曲すべて別のオーケストラという変わったボックスですが、この9曲に Rafael Kubelick Beethoven Symphony Box というアルバム・アーティスト名を付けておけば、これを選んで9曲の交響曲を一覧表示させてから選ぶこともできるようになります。作曲者タグは、ロックやジャズを聴いているときに「これは誰が書いた曲なんだっけ」というときに、クラシックの場合「サン=サーンスっていつの時代の人だっけ」(Camille Saint-Saens (1835-1921)のように入力している)いう時に参照することがあるため、必須とまでは言わないもののできれば表示してもらえることが望ましい項目。
ネットワーク・プレーヤーの世界で標準的な(即ち普及している)DLNA系のサーバーは、再生できる商品が出回って既にある程度の時間が経過してるからもうこなれているんじゃないかな、まあ僕が重視していることくらいはクリアしているだろうと思って標準である「こっちの世界」に入ってみました。先におおまかな結論を言ってしまうと、「こっちの世界」は使い勝手が悪くとっても面倒。以下、試してみたDLNAサーバー(QNAPで動作させることができるもの)とコントロール・アプリ(iPad版)について所感を書いてみたいと思います。
【DLNAサーバー所感】
[Twonky Server]
よく名前を見るDLNAサーバーで、DLNAサーバー利用者の8割以上がこれを使っているのではないかとまで言われているデファクト・スタンダード。QNAPでは標準アプリとしてインストール済み。ところがこれはちょっとビックリの、ディスク番号、アルバム・アーティストに非対応。これまでのライブラリーに大量に存在するCD複数枚またがり交響曲のトラック番号を打ち直すことは考えられないため、ディスク番号非対応では使えない。曲の検索でも、ジャンル → アーティストの階層で全アルバムの表示ができないため、操作性も僕の要望を満たしていない。ライブラリの管理は、まずまずわかりやすく及第点。スキャン・インターバルを -1 に設定しておけば、曲追加時にすぐに反映してくれるのはとても良い点。ただ、どういうわけか拙宅のQNAPはNASを再起動すると設定が消えてしまい、ライブラリーをスキャンし直さなくてはならないことがあったり、いろいろ動作が不安定だったりする。機能が貧弱で安定して稼動してくれないので、すぐに利用することをあきらめました。
以下、ディスク番号に対応しているDLNAサーバーを探してトライ。
[MinimServer]
QNAPでの導入は簡単。App Centerから、前提となるJRE_ARMというアプリをインストールしてからMinimserverをインストール。管理画面を開いてすることは、ライブラリーの場所指定だけで、QNAPのデフォルトであるMultimediaを利用しているのなら初回は自動でスキャンされる。スキャンのステイタスは表示されるものの「Refresh」ボタンを押さないとステイタスは更新されない。ステイタスがStartedからRunningになればスキャンは完了。全曲スキャンに要する時間は、40,000曲で30分くらいと早い(途中経過を表示しないし終了を知らせてもくれないので厳密に測定したわけではない。以下スキャン時間はQNAP TS-112Pでの話)。
ライブラリー変更時には、Media server status for MinimServer [QNAP]: の項目の「Rescan」ボタンを押すだけ。このボタンはフルスキャンも差分スキャンも区別がなく、恐らく自動で判断してやってくれているものと思われる(所要時間より推測)。パソコンにMinimWatchというソフトをインストールすれば、サーバー名などもう少し多くの項目が管理可能になる。Web画面でのライブラリ管理の画面がかなりぶっきらぼうなので当初は面食らうものの、やることは他のDLNAサーバーと大差ないので慣れれば問題ない。
「Artist」を選ぶとアルバム・アーティストが入力されている場合はアルバム・アーティストでリストされる(iTunesやiOSデバイスと同じ動き)。アルバム・アーティストではなく、アーティスト名で検索したければ「All Artists」を選べば良い。ブラウズ階層、メニューは豊富でジャンル → アーティストの階層で全アルバム検索も可能であるところも僕のニーズを満たしている。また、アーティスト → ジャンルという順でもアルバムを探すことができるなど、探し方の自在性が高いのが特長。一方でその分煩雑な階層構造と感じる人もいるかもしれない。
MusicCastアプリでMinimServerのライブラリを利用すると、曲再生中の画面でアーティスト名が表示されない。まあ、自分で曲を選択したらアーティスト名くらいわかっているだろうということなのかもしれませんが。
MinimServerについて、詳しくはこちらのブログで紹介されています→ http://kotonohanoana.com/archives/8121。
余談ですがこちらのブログはネットワーク・プレイヤーに関するサーバー、アプリの情報が満載でとても役に立ちました。こういう情報を残してくれているのは本当にありがたいです。この場を借りてお礼を申しげておきます。
[Asset uPnP]
こちらはQNAPの場合30ドルの有償版(参考情報はhttp://kotonohanoana.com/archives/8031)でインストール後、30日間はトライアルで無償利用可能。QNAPのAPP Centerからの検索では出てこないのでWebサイトからQPKGをダウンロードして手動インストールする必要がある。
このDLNAサーバーの特徴はメニュー画面をカスタマイズできること、その自由度が高いことにある。僕が望む「ジャンル → アーティストの階層でそのジャンルの全アルバムが表示できること」はカスタマイズで実現。同じ画面でアルバム・アーティストとアーティストの両方表示はできないもののジャンル階層の下にアルバム・アーティストのメニューを追加することで概ね解消した。ライブラリーのスキャンは40,000曲で1時間30分くらいと長めではあるものの、差分スキャンの指定もあるので初回スキャン以外はあまり億劫にはならない(参考までに、LMSのフルキャンはおよそ1時間10分程度)。
(4/2追記: Asset uPnPは異なるアーティストで同じアルバムタイトルのものがあると別アルバムとしてうまく分類できないようです。例えば Rachmaninov: Piano Concerto #2 というアルバム名でいくつかの演奏家のものがある場合、同じアルバムとしてごちゃまぜになってしまう場合があります。これだとクラシックのライブラリでは使えません)
MusicCastでは、再生中の画面では、MinimServerで作曲者名を表示していた場所に、アーティスト名が表示されるようになる。アプリが同じでもサーバーが違うと出て来る情報が異なるのはちょっと予想外の結果。
尚、クラシックの協奏曲はCDDBから引っ張ってくる情報によると表記方法の世界的にスタンダードはソリストと指揮者+オーケストラは ; (セミコロン)で区切るようになっている(感覚的には80%以上)。この名前の処理がLMS、MinimiServer、Asset uPnPでそれぞれ異なっている。例えば、
Martha Argerich; Claudio Abbado: Mahler Chamber Orchestra
とアーティスト名が入力されている場合、LMSはアーティスト名に「Martha Argerich」と「Claudio Abbado: Mahler Chamber Orchestra」両方がリストされ、どちらからもそのアルバムを参照できる。つまり、ソリストからも指揮者+オーケストラからでもアルバムを探すことができるようになっている。MimimServerはセミコロンを含めたアーティスト名がそのまま表示され、Asset uPnPはソリストのみ表示される(指揮者とオケは表示されなくなってしまう)。どの方法であってもソリストから探すぶんにはそれほどの相違は出ないものの、LMS以外は指揮者+オーケストラからその協奏曲を探すことはできない。
【コントロール・アプリ所感】
「Server」からライブラリーを選択、曲をブラウズして行くときの画面は右側に細々と表示されるだけでとても狭い。SqueezeBox Touch本体ディスプレイの約4倍の表示面積があるiPadで使っているのに表示できる情報(文字)がSqueezeBox Touch本体より少ない。最近のDAPと同じ傾向で、ブラウズ時のアルバム・タイトル、曲名などの文字が表示しきれない長さのとき、収まらない文字はカットされてしまう。ロックやR&Bのようなポピュラー系やジャズの場合はほとんど問題ないものの、クラシックの場合は以下のようになってしまい、とても使いづらい。これではiPadの大きな画面で操作する意味がまったくないと思う。
また、こうやって試しているうちにいつの間にか、画像が付くメニュー・アイテムだとサムネイル+文字表示だったものがアイコン表示+小さな文字に変わってしまった。これは恐らくMusicCastのバージョンが上がったからと思われる。結果的に以下のように表示されるようになった。これは、iOSの標準ミュージックアプリと似た見た目で、ジャケットは目立つものの、文字情報が更に減って困ることこの上なく、iPadを横表示にしても解決できなくなってしまった。iOSミュージックアプリは世界中で評判が悪いのになぜ同じ方向性に進んでいるのか理解不能である。
(2018年6月追記: しばらく使っていなかったので気づかなかったんですが、バージョンアップで「サムネイル+文字表示」と「アイコン表示+小さな文字表示」を選択できるようになり、使いやすくなっていました)
また画面に羅列されるリストが多いときに、たとえばSから始まる名前に一気に移動するジャンプスクロールができないというのも、この種のアプリではあり得ない瑕疵。僕のライブラリーのように900ものアーティストがあると延々とスクロールしなくてはならなず、アーティスト・メニューからZZ Topを選ぶことは非現実的になってしまった。しかもスクロール中に情報の読み込みが入ることがあり、スクロールそのものが引っかかるという追い打ちが加わる。(3/27追記:特定文字へのジャンプ・スクロールはできないものの、画面右端に細ーいスクロールバーがありそこを上下すると一気にスクロールできることがわかりました。)
曲再生中の画面は更に問題だらけ。いや、よくぞここまで削ったなと思えるほどの情報切り捨てぶり。再生曲の長さ、シークバーの表示もなく、シークバーによる曲進め/戻しはもちろんできない。再生中アルバムの曲一覧(プレイリスト一覧)を含め、どの画面を見ても、その曲が何分の曲かを知ることすらできない。また、現在再生中の曲がアルバムの何曲目かも表示されない。これらはほとんど(すべて?)のコントロールアプリやDAPでは見ることができて当たり前の情報で、どういう意図で削ったのか小一時間くらいヤマハを問い詰めてみたい気持ちになってしまう。
(以下ここからのアプリのコメントは3/31修正)
というわけで、あまりにもMusicCastのデキが酷いので汎用的に使えると言われているLINN Kinskyというアプリをトライしてみる。使えると思ったら、WXC-50が見えたり見えなくなったり不安定で、使えている場合でもギャップレス再生ができなくなってしまった。
次にOpenHome対応のプレーヤーなら使えるLUMIN Appにもトライ。OpenHome環境でWXC-50を認識させるためには、Bubble uPnP ServerをLAN内に立てる必要があります。QNAPを使っているのであればアプリをダウンロードしてインストール、設定画面を開いて「Media Renderers」タブでネットワーク・プレーヤーを選択し、Create an OpenHome renderer のチェックボックスにチェックすればOK(詳細はhttp://kotonohanoana.com/archives/8594)。やった!操作できる!と喜んだものの、こちらもギャップレス再生ができない。もう一度設定を見直すと、同じ「Media Renderers」タブにGapless playbackという項目があり、ここにチェックを入れたらギャップレス再生できるようになりました。
尚、Bubble uPnPサーバーを立てるとLINN kinskyアプリも安定して操作できるようになり、こちらのアプリでも操作可能となって、これでMusicCast以外の選択肢が2つになりました。
LINN Kinskyは、奇を衒っていな標準的なインターフェイス。当然シークバー(円形だけど細かく動かせる)もあり、必要な曲情報も表示されます。ただ、ジャケット写真を大きく表示させる再生中画面モードに切り替えても、作曲者タグ情報は表示されず、他の文字情報は切り替え当初に表示されるものの、しばらくすると消えてしまいジャケット鑑賞モードになってしまうのがちょっと残念。また、曲選択の階層まで降りてから、例えばジャンル選択に戻りたいときに1段ずつタップして上の階層に戻らなくてはならないようで、これはちょっと面倒です(操作方法がわかっていないだけ?)。
LUMIN Appもそう大きく違うわけではありませんが、DLNAサーバー初回接続時に全ライブラリーをスキャンしてアプリ自身でライブラリーを構築、それを利用できるところが特徴。ところがこのライブラリが使いづらいので、素直にDLNAサーバーのライブラリーを参照して使ってみる。サムネイル表示とリスト表示の選択ができるところがまず良い。現在のフォルダ位置のボタンをタップすると上位階層へジャンプ(いくつか選択肢が出る)できるところも有り難い。操作面ではシークバーがもちろん利用可能。再生中画面は残念ながらKinskyと同じで、作曲者タグは読み込まず、ジャケット鑑賞モードにしかなってくれません。総じてKinskyよりは使いやすく、いろいろ操作方法に選択肢があるアプリだと思います。
結果的に、いろいろと策を講じることなくまともにギャップレス再生できるのはWXC-50標準アプリのMusicCastのみということに。ギャップレス再生はレンダラー(プレーヤー)だけに依存すると思っていたんですが、それ以外(アプリなど)にも依存するものなんだと今回初めて知りました。曲再生中の情報もアプリとDNLAサーバーの組み合わせによってそれぞれ変わってしまう。つまりDLNAサーバーを利用したネットワーク・プレーヤー環境での使い勝手(できること、できないこと)はいろいろなパターンがあって、それぞれ試してみなくてはわからない。「こっちの世界は面倒」と書いたのはそういう理由からです。Bubble uPnPサーバーを立てればKinkyとLUMINもギャップレス再生可能になるので、結果的にはまあよしとしましょうという感じでしょうか(これらの動作はあくまでもWXC-50での話で他のレンダラーでどうなるかはわかりません)。
iPengは左側のペインにメイン・メニューが常時表示(下写真)されており、ジャンル、アーティスト、アルバムのメニューにワンタッチで戻れるのがなんと言っても便利です。LUMINはKinskyのようにひとつずつ階層を上がる必要こそないものの2タッチ必要で、どこまで戻るのか直感的でないところが惜しい(その代わりどの階層にも移動できる)。
尚、ここで試したどのアプリもプレイリストに登録した曲を順次再生する仕組みになっていますが、その登録の方法がやや異なります。
MusicCastはアルバムの1曲めを選択するとアルバム全曲がプレイリストに登録されて順次再生、別のアルバムの1曲めを選択すると前のプレイリストをすべて消去して選んだアルバム全曲をプレイリストに登録して順次再生する方式のため、プレイリストを操作していると意識させない作り。
LUMINとKinskyは(それぞれオペレーション方法がやや異なるものの)アルバム全体または曲を選んでプレイリストに登録して再生する方式。Kinskyは(操作方法を僕がわかっていないだけなのかもしれませんが)、次のアルバムを選択すると既存のプレイリストに追加して再生する方式でこれだといちいち以前のプレイリストを消していかないとどんどん溜まってしまう。LUMINはKinsky同様な追加もできるし、既存のプレイリストを削除して新規アルバムをプレイリストに登録、それをそのまますぐに再生する方法も選べる。既存のプレイリストを削除する方式だとMusicCast同様にアルバムを選択するような形になります。
これらに対してiPengは1曲ずつプレイリストに追加することもできるものの、基本的にはアルバムから1曲めを選択するとアルバム全体がプレイリストに登録されて順次再生されるMusicCast方式。
僕は基本的にアルバム単位で聴くのでiPengかMusicCastの方式が使いやすい。iPengはプレイリストで曲を選んで追加することもできるので僕にとっては一番フレキシブルに使える。また、アルバム選択時にそのアルバムのトータル時間を表示してくれるのもiPengのみ。再生中(ジャケット大写し)画面で曲情報を表示し続けてくれるのも、そこで作曲者情報を表示してくれるのもiPengのみ(MusicCastはMinumServerのときのみ作曲者を表示してくれる)で、しかもその画面で横方向にスワイプするとアルバムの曲一覧表示にもできます。
要は、操作性も情報量も情報の見え方も、どれを取ってもiPengが断然使いやすい。慣れているということを差し引いたとしても。
また、iPengはプレイバック機能(操作している端末でも音楽を再生できる機能)もあり、Bluetoothスピーカーで聴きたいときにも利用できるし、iPadだとAirPlay環境があればプレーヤー(レンダラー)がなくても音楽を聴くことができるフレキシビリティがあり、ここで試したどのアプリよりも多機能です。
強いてiPengの欠点を挙げるとすればひとつ。iPengはタブレットがスリープ状態になるとサーバー(LMS)とのセッションが切れるため、次の操作のときに再接続で待たされ、場合によっては操作をやり直さないといけないことがあります。NASが他のアクセスでビジーな場合だと、さらにその状況に陥りやすい。今回試した他のコントロール・アプリはそういった「待ち」を感じることはほとんどありませんでした。ただし、バッテリー消費を気にしないのであればiPengもセッションを維持する設定(Preserve Commection を On)にできるので、その場合はこの問題はクリアになるし、仮にセッションが切れて上記リトライの操作をすることになったとしても大量にファイルをコピーしていたり、重いスキャンをかけたりしていなければ長時間待たされるケースは少なく、それほど面倒には感じません(慣れちゃってるせいかも)。
【総括】
WXC-50(とDLNAサーバーとコントロール・アプリ)は、SqueezeBox Touch+LMS+iPengで普通にできることができないし、今回試した範囲では、どのサーバー、どのアプリを使ったとしても操作性が及ばないという結果になりました。NASの音楽ライブラリーを再生することに関しては、WXC-50 + MusicCastではできて、SqueezeBox+iPengではできない、という逆パターンが僕の利用形態だとひとつもないというかなり残念な結果に。SqueezeBoxが使えなくなったときの仕方なしの代用品としてなら認められるものの、この完成度では移行しようとはとても思えません。幸いにして動作したLUMIN Appのおかげで、最悪Squeezeboxが使えなくなったとしても及第点の操作性を確保できましたが、uPnPをセットアップして他社のアプリを使わなくてはならないようではヤマハの製品としてよくできているとは言えません。
そもそもLogitechというパソコン周辺機器の会社が少なくとも7年以上も前に販売・提供(SqueezeBoxじたいの歴史はもっと古い)していたネットワーク・プレーヤーの環境に、オーディオ・メーカーが発売した新製品が負けているというのはどういうことなんでしょう?
NASに収納した音源をオーディオ装置で、リッピング(あるいはダウンロード)された音源だからこその利便性と快適性をもって聴きたいという現代の音楽愛好家が普通に思っているニーズに対するゴール設定が甘すぎないでしょうか?オーディオ・メーカーは音楽を聴く人を幸せにしたいと思ってくれていないんでしょうか?単に商売としてネットワーク・プレーヤーを、そこそこに使えるものでいいやと発売しているだけなんじゃないか、とすら思えてしまう。
ネットワーク・プレーヤーといえば、LINNやLUMINといったハイエンド・メーカーがあり、これらは専用アプリを含めて使い勝手が良いという評判が多く、高価なのはそれ故(そこが価格に反映されている)という声もあります。LINNは使い勝手のためにサーバーソフトまで自社開発しているわけですが、Logitechも完成度の高いサーバーソフトを、DLNAが一般化する前に開発し、無償で提供しています(製品も安かった)。だからこそ、ネットにフォーラムができるほどユーザーが増え、サードベンダーがコントロール・アプリを作る(未だにバージョンアップもある)までになったわけです。日本のオーディオ・メーカーは、5年も前に販売を終了したLogitechというパソコン周辺装置のメーカーよりも使い勝手の悪いものを新製品として出していていいんでしょうか?
SqueezeBox Touchはもともと3万円前後で購入できたもので、外装をはじめ作りは相応にチープなものです(リモコンが経年劣化でネバネバになっていくところなど外国製品ならではのクオリティ)。販売終了となった今、10万円くらいで販売しているショップを見て「さすがにそれはないだろう」と思っていたんですが、DLNA系のネットワーク・プレーヤーの世界がこのレベルでこの値段ならば確かに10万円の価値があるな、と思うようになってしまいました。
今回、WXC-50導入でいろいろ試行錯誤して思ったのは、DLNAを中心としたネットワーク・プレーヤーの世界は、今後ずっと利用できるか、という観点でも盤石でないことでした。QNAPはTwonky Serverをサポートから外すというニュースが出ています。MinimServerもAsset uPnPも開発者がいつまでQNAPで動作するものを提供してくれるのかわからない。もともと「いつまで使えるのか不安だったSqueezeBox環境」を懸念してたのに、DLNA系の世界でも状況はそれほど違っておらず「5年後はどうなっているかわからない」ものだったというわけです。もちろん、それに代わるものが出てくる可能性もないとは言えません。でも、そういう情報に常に注意を払って、何かができなくなったとしても代替手段を自分で探す努力をし続けなくてはならない面倒なものがネットワーク・プレーヤーの世界だということがよくわかりました。
そもそも、曲をファイル管理するには自分なりの法則で綺麗にタグ情報を付けていく管理をしておかなければならず、これが結構めんどくさい。そうやって手塩を掛けた作り上げた渾身のライブラリを、5年以上使うと可能性が高まるHDDクラッシュから守るには当然のことながらバックアップを取っておく必要があり、その手間もかかる。こんな苦労をするくらいなら、CDプレイヤーで大人しく聴いていた方がいい、と思う人がいても当然だと思います。
それでも、曲の検索性の高さ(CD 3000枚でもすぐに聴きたい曲を引き出せる)、CD収録時間を超えた大曲のシームレスな再生の2点は、ネットワーク・プレーヤーでしか実現できない、CDでは得難い大きな利点であることは動かしがたいところです。収納場所に限りがあるために7割以上のCDを既に売ってしまったこともあって、これからもネットワーク・プレーヤーを愛用し続けて行きたい。だからこそ、オーディオ・メーカーには、サーバー、レンダラー、アプリを本気で開発していただきたい。それが本音ですが、現状を見るとネットワーク・プレーヤーという分野じたいがもう停滞し、市場拡大の見込みがないため、ビジネス的な旨味がない(しかもCDプレーヤーと違ってサポートの手間がかかる)から力を入れて良いものを作ろうと思っていないんでしょうね。国内メーカーに関して言えば、どこも力を入れていない完成度が低いものしか出していように見受けられる現状、しっかりしたものを作れば一人勝ちできるんじゃないか、とは考えてくれないものでしょうか?