FC2ブログ

Enjoy Life, Enjoy Hobby

趣味の人生を楽しむサラリーマンの日記

ベルリン・フィルとウィーン・フィルのチケットを取る

ベルリンフィルのチケット

つい2ヶ月ほど前に、このブログで「ウィーンよりも、ベルリンよりも、僕は夏のルツェルンに行ってみたい。」と書いたばかりだ。そんな折、仕事のキリがついてどうやら春から初夏の頃にまとまった休みが取れることになった。しかし、残念なことにルツェルン・フェスティバルの時期には少し早い。ならばやはりウィーンとベルリンに行って見てこようではないか、という自然な(というか贅沢な)セカンド・チョイスをすることになった。

そう思い立って早速プログラムを調べてみる。旅行期間は6泊8日が限度。その短期間でウィーン・フィルとラトル指揮のベルリン・フィルと両方を観ることができるタイミングは限られている。調査の結果

6/23(火)ヤンソンス指揮ウィーン・フィル
マーラー:交響曲第3番

6/25(木)ラトル指揮ベルリン・フィル
ハイドン:交響曲第80番
陳銀淑(チン・ウンスク):ソプラノと管弦楽のための「Le Silence des Sirenes 」
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番(クリスティアン・ツィメルマン)

くらいしか狙い所がないことがわかった。ウィーン・フィルは楽友協会での今シーズン最後のコンサートだ。実はマーラーの3番は冗長過ぎてあまり好きじゃない。ツィメルマンのブラームス1番は、ほんの4ヶ月前にヤンソンス指揮BRSOで聴いたばかり。というわけで思わず身を乗り出すほどのプログラムでないことにいささかの落胆はあった。

だが、冷静に考えてみよう。観れるだけでありがたいと言えばその通りではないか。ソリストとコーラス隊が入るマーラーの3番を聴く機会は日本ではなかなかないだろう。しかも、ヤンソンス指揮ウィーン・フィルで聴くチャンスは今後も恐らくないだろう。ベルリン・フィルのプログラムも、ハイドンの80番なんて日本では聴けないだろうし、やはり馴染みのない陳銀淑という現代音楽家の音楽も日本では聴く機会はまずないだろう。日本で観れないプログラムが観れることこそが本場の醍醐味ではないか。

早速チケット情報を調べてみる。するとなんとベルリン・フィルの25日の公演は次の日の日本時間16時にチケット発売開始となっているではないか。とりあえず取ろう。まだ3ヶ月半も後のことだから航空券やホテルは後で考えることにして。

というわけでベルリン・フィルの公式サイトからチケット購入を試みる。これからチケットを買おうという人に少しでもお役にたてればということで、このときの顛末を一応要約してみる。
(尚、情報はすべて2015年3月8日時点のものであることをお断りしておきます)

【最低限の英語は必要。できればドイツ語を】
サイトはもちろんドイツ語が標準。英語を選ぶことができるので、英語アレルギーな人でなければあまり不安はない。ただし、処理を進めていくとドイツ語に切り戻ってしまうことがあり、その都度英語を選びなおす、ということを何度も経験した。なにしろ発売開始時間帯は日本のチケット購入サイトのように重くなるので、その言語切替もスムーズにいかず、少々イライラする。ドイツ語ができて進められるのならそれに越したことはありません。

【購入手続きは標準的】
公演スケジュールから目的のコンサートを見つけるのは、標準的なサイト操作が分かる人なら簡単だと思う。チケット発売ページを事前に見てみると「あと何時間で発売開始」のカウントダウンが始まっており、その時刻が来ると「購入」ボタンに変わる。あとはそこをクリックして購入を進めていくだけ。

【やはり混雑は凄い】
発売のタイミングでアクセスすると、日本のぴあやイープラスなどと同じように混雑が凄いようで、ブラウザのメッセージでタイムアウトを宣告される。僕のメイン機はWindows 8.1、Internet Explorer 11で、こうなったら並行でやろうとサブ機のMacbook AirとSafariの組み合わせでやってみると、重いながらもなんとかつながり、先に進めることができた。この違いが何なのかはよくわからない。思い当たるところとしては無線LANがMacだと11acで高速につながることくらいか。

先に進むようになったとして、ここで万事OKとはならない。今度はベルリン・フィル側のサーバーからのメッセージで「高負荷のためお待ちを」的なメッセージのキューイング画面に移り(待ち行列に並んだよという意味)待つことになる。待ち件数が400件ほどと表示されカウントダウンが進み、ゼロになると次に処理に進む。この数字はチケット購入の待ちではなく、サイト上の処理タスクの件数と思われ、この先のどのステップでもこの繰り返しとなる。そしてこのキューイング画面になったときに何度もドイツ語に戻される経験をした(だからドイツ語で進められるのならそれに越したことはない)。また、正しく進んでいるはずなのに購入画面の処理をすることができずポータルに戻されることもあり、何度も購入手続きをする羽目になった。もちろん、その都度確認する空きシートはどんどん減っていく。

ちなみに、Windows、Macの2台体制の並列でチケット入手の操作をし続けたけれども、Macで購入手続きが完了するまでの間、Windowsのパソコンはついにチケット購入画面に辿り着くことすらできなかった。

【ユーザー登録は事前に済ませておく】
ベルリン・フィルのサイト、トップページには「ログイン」が見当たらない。チケット購入手続きに入ると登録済みの人はログインを、そうでない人は新規登録を促される。これは日本のチケット発売サイトでもよくあるパターンなので戸惑う人は少ないでしょう。なので購入時にユーザー登録しても問題はないんだけれども、登録の手続きに時間を要している場合に席の入手にどう影響があるかはわからない。席を指定したときに一応押さえてくれているのなら慌てる必要がないのかもしれないとはいえ、前述の通り、サイトが混雑するせいか先にうまく進めずやり直しを何度かさせられる羽目に陥った僕の経験から、購入時のステップは可能な限り減らした方が良いと思う。よって、新規ユーザー登録は事前に済ませておくことを強くお勧めしておきたい。トップページから新規ユーザー登録するためのリンクは見当たらないので、発売中で買うつもりがない別公演のチケットを購入する手続きを進め、その中で新規ユーザー登録をする(もちろん最終的にそのチケットは購入しないでやめる)方法を僕は採った。新規ユーザー登録をすると、ランダムなアルファベット並びの初期パスワードを書いたメールが送られてくるので、それでログインして自分のパスワードに変更するまで済ましておくと良いでしょう。

このような紆余曲折を経てついにチケットを確保、ベルリン行きは確定になった。やった!ちなみに、7時間後に見てみたらなんと余りチケットが増えていて良い席もわずかながら残っていた。う~ん、僕の勝手な想像だけれども特別なコンサートでもない限り、チケットを入手するだけなら発売時間にがむしゃらにならなくても発売日に行動すればなんとかなりそうな気がする。最も高い席で96ユーロだからやはり日本で観るときの3分の1程度と、日本人にとっては破格の割安感で、そのせいもあってか日本とは違って高い席の方が先に売れてしまう傾向にあるようだ。

尚、購入時にチケットを受け取る方法を選択する必要があり、やはり手元にあった方が安心できる(現地で何かの手違いがあって予約が無効だったとかなると取り返しがつかない)ので "Shipped" を選択したものの、購入確定を知らせるメールには

Important notice:
In case you did not receive your tickets please arrive
no later than 30 minutes prior to concert at the box office.
Your tickets will be deposited there.

と、Box Officeで受け取るような書きっぷりだったので念の為にメールで問い合わせたところ、2週間以内にエアメールで発送すると返信があり、その通り8日後には届いた。

ウィーン・フィルに関しては、こちらのブロクの方が書いてくれている。
http://3sisters.jugem.jp/?eid=846
この方、クラシックに詳しい感じではないんだけれども、チケット入手から現地でのコンサートに至るまで詳しく書かれているので大変参考になる(海外ではいかにもありそうなトラブルに巻き込まれていることも含めて)。定期演奏会は基本的に定期会員向けで原則はSOLD OUTであること、しかしキャンセルされるものが出るので購入可能であることなどがわかった。しかし、通常演奏会のチケットも取るのはなかなか大変そうで、しかも発売日が4月23日木曜日の日本時間17時からだとさすがに開始直後に争奪戦に参入するのは難しい。ここは素直にムジーク・ライゼンというエージェントにお願いすることにした。

このチケット入手まではまだしばらくあるので、そのときにまたこのページを更新する予定です。

(4/17追記)
ベルリン滞在期間である6月26日にソヒエフ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団のコンサートが、ベルリン・フィルハーモニーで予定されていたのでこちらもチケットを購入。なんとたったの18ユーロ。演目はR.シュトラウスの「英雄の生涯」しか書かれていない。ベルリン・ドイツ交響楽団のWebサイトをよく見るとカジュアル・コンサートと銘打ってあるので、どうやら1曲だけのようだ。オンラインでチケットを購入。ボックス・オフィスに当日取りに行くのが標準らしいけれど、オーダー後のメールでは、

However, if it is your express wish to receive your tickets by mail and if there is enough time to allow for a timely delivery, we will of course dispatch them to you. In this case, please contact us at tickets@roc-berlin.de. Please remember that we are not liable for incorrect address details or loss in transit.

と書かれていたので2ユーロの送料を払って送ってもらった。さて、席はどのへんだろうとわくわくしながら開封するとチケットには Sitzplatz(座席)、feuer frei と書かれている。即ち「全席自由」。ソヒエフとベルリン・ドイツ交響楽団は今秋来日することになっていてS席は19,000円も取ることを考えると、カジュアル・コンサートとはいえ、ずいぶん気楽に見れるものなんだなあと音楽と日常生活との距離感の違いを感じてしまうのでした。

(4/24更新)
ムジーク・ライゼンさんでチケットを確保できました。人気公演なので入手優先で行きます、という事前の意思確認があり、それに合わせて席のエリアの希望のヒアリングもありました。手数料はかかりますが、発売日と発売時間が日本人にはあまり適切な時間でないケースが多そうなので、1枚3,000円の手数料を支払っても価値があると思います。ちなみに確保できたのは正面2階の最後列でチケット代は65ユーロでした。

ドゥダメル指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニック 2015年日本公演

ドゥダメルLAP2015

ドゥダメル指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニック 2015年日本公演
2015年3月28日
サントリーホール
【演目】
マーラー 交響曲第6番

クラシック初心者に高いハードルとしてそびえ立つのがマーラーだ。僕もベートーヴェンから入ってブラームス、シューベルトあたりを聴き進めていくときにはまったく抵抗を感じず、「さすが100年以上も残っている音楽とうのは素晴らしいなあ」と楽しんできたけれど、マーラー(とブルックナー)はすぐにはその良さがわからなかった。

なにしろ曲が長いところがまずは障壁になってしまう。プログレやジョン・コルトレーンで長尺演奏になれている僕でさえ「長すぎる」と感じてしまう。そして曲の中のメロディが口ずさみにくいから覚えにくいし、ではただ音に身を任せているだけで楽しめるかというとそうでもない。一方で、理解できなくても「この音楽には深みがある(聴き込めばその素晴らしさを理解できる)んじゃないだろうか」と攻略しがいのある音楽が目の前にあると繰り返し聴く忍耐があるのが僕という人間でもある。プログレッシヴ・ロックもマイルス・デイヴィスもジョン・コルトレーンもそうやって克服し、今では自分にとってなくてはならない音楽になっているという体験も音楽への探究心を保ち続ける原動力になっている。

クラシックを聴き始めて2年と少しが経過し、最近になってようやくマーラーの良さがわかってきたような気がする。好きなのは2番、6番、7番、9番。そしてついに初めてのマーラーをドゥダメル指揮ロサンゼルス・フィルハーモニックで聴く機会を得た(アメリカのオケを聴くのもこれが初めて)。

生のマーラーは、想像を超えて素晴らしかった。編成が大きい曲が生演奏でより映えることは、過去に聴いたブルックナーの経験からなんとなく想像がついていたけれど、それをわかった上でもやはり圧倒されてしまった。各パートの動きを俯瞰して見ていても他の作曲家の曲とは動きが違うし、多種多様の楽器が代わる代わる多彩な音を奏でるオーケストレーションの面白さも存分に味わうことができて見ていて実に面白い。マーラーでは度々見られるホルンや木管の持ち上げ、第4楽章のハンマーの一撃(二撃?)は視覚的にも迫力満点、譜面では「複数のシンバル」と指定されているところで見せた5人同時の「バッシャーン」など音響効果だけを取っても楽しく観ることができる。「マーラーは生(あるいは映像)で」とおっしゃる御仁が多い理由を嫌でもわからせてくれる楽しい体験だった。

ロサンゼルス・フィルハーモニックは、とにかくすべてのパートの鳴りっぷりが凄まじい。編成が大きいという理由はもちろんあるんだけれども、金管も木管も押し出しが強く、弦もとても良く歌う。特に木管に圧力を感じたのは初めての経験だった。オケ全体が活発に歌うという観点で言えば、これまでに見たどのオケよりも上だったように思うし、各パートも乱れることなく合奏力も高い。また、これは土地柄のせいなのか出てくるサウンドが明るい(妻は暖かいと表現していた)。10日前に観たベルリン放送響とは音色が(曲が違うせいもあるけれど)まったく違っていてオケのサウンドがとても個性的。ある意味エンターテイメント性が高いサウンドだと思うので、マーラーに死や苦悩、ドロドロした情念(例えばテンシュテットのような)を求めると、ちょっと違うなあという人もいるに違いないけれど、どんな音楽も基本的には娯楽と考えている僕のような人間には大いに楽しめる性格のオケだった。

実はこの日は少々疲れ気味で、気持ちが上向いてこないまま開演を迎えていた。まずいなあ、今日はあんまり楽しめないかもなあ、と思いつつ、実際に第2楽章(ちなみにアンダンテ→第3楽章スケルツォ順だった)などは、少し眠くなるところもあったんだけれども、第4楽章のエネルギッシュかつメリハリのついた熱演にはそんな体調も関係ないほど手に汗握る興奮を覚えた。ドゥダメルの指揮が、溜めるところは溜めて(しかし遅くなりすぎず)、躍動するところはアグレッシヴに(でも速くなりすぎず)、というアプローチで僕の好みに合っていたことも功を奏したかもしれない。いずれにしても、オケの活発さと若き指揮者の躍動がうまく噛み合った実に素晴らしいコンサートを観れて本当に良かった。

あとで家にあるCDでロサンゼルス・フィルハーモニックの音を聴き直してみた。ジュリーニ指揮のベートーヴェン交響曲第5番はやはりサウンドが明るくてこの日のコンサートと同じ印象。これもベートーヴェンらしくないという人がいそうだけれども、僕はいいと思う。娯楽バンドの頂点、クイーンを愛する僕がこのオケのファンになってしまったのは自然な成り行きかもしれない。ドゥダメルは契約を2022年まで延長したことをこの日発表、今後も目が離せない。

ヤノフスキ指揮 ベルリン放送交響楽団 2015年日本公演

ヤノフスキ2015

ヤノフスキ指揮 ベルリン放送交響楽団 2015年日本公演
2015年3月18日
サントリーホール
【演目】
ブルックナー 交響曲第8番

第8番は、ブルックナーの交響曲の中でも1番人気がある曲でCDも数多くリリースされている。ブルックナーを手がける指揮者で、いくつかの交響曲を録音していないことはあっても第8番を録音していない人はほとんどいないというくらいの主要曲だと言える。ちなみに僕はこの8番はそれほど好きなわけではない。特に単調なメロディを延々と繰り返す(妙に耳に残ってしまうけれど)第2楽章なんて、作曲技法としても表現としてもあまり大したものだとは思えない。第3番以降の交響曲と比べて第8番が抜きん出て素晴らしいとは思えないんだけれど、かと行って低く見ているわけでもないというのが僕にとっての8番の位置付けになっている。

主要曲である8番を、ある程度知名度のあるドイツのオケで、リーズナブルなチケット代で聴ける機会に恵まれた。なにしろS席15,000円が10,500円の値下げとなるとやはり行かなくては、となってしまう。売れ行きが悪いと値引きするというクラシックの世界独特の習慣は、最初にチケットを買った人にとっては感情的に面白くないのは確かで、僕も2013年のバーミンガム市交響楽団でその思いを味わっているので気持ちはよくわかる。でも「興味はあるけれど行くかどうかは迷うな。平日か。そのころ仕事がどういう状況か予想がつかないしな」などと考え始めると「やめておこう」となりがちなところ、直前に割引の知らせがあると仕事の都合も見えいてることが多いので買いやすい。空席だらけだと観ている方も悲しくなるし、主催者や演奏者も嬉しいはずがないのだから値引きシステムはやはりあってくれた方がいい。

海外オーケストラのチケット代は本当に高くて、いろいろ見たいと思っていると結構出費が嵩んでしまう故に、普段は壁際の末席ばかり。でも、今回は売れ残りの恩恵を受けて、今まで体験したことのない1階の10列目右寄りという、演奏者の表情までもが見える席で聴けることになった。譜面をめくる音まで聴こえてしまうので、当たり前だけれども音が近い。弦がこすれす音の機微までもがよくわかる。やはり、良い席はいいなあ・・・。あと、これはオケの席配置にもよると思うけれど、ホルンの朝顔が正面から見て左側の壁を向いていて、その反射音がとても良く聴こえる位置でもあった(ホルンの朝顔が正面を向いていないのは反射音を聴かせるためなのだとか)。

演奏は、それはもうとてつもなく素晴らしかった。細かい点を挙げれば多少の乱れはあったと思うし、各パートそれぞれが惚れ惚れするほどの美音だったかと言うとそこまでではなかったと思う(日本のオケよりはずっと上手いケド)。でも、オケの鳴りっぷりは凄かった。金管のパワーと艶のある木管、美音だけでなく雑味も含んだ良い意味での粗さと美しさを兼ね備えた弦のバランスが良く、まさにオーケストラが高らかに歌っている状態。譜面に沿ってお稽古の延長で演奏するのではなく、あくまでも自発的に表現するのが海外オケの特徴であることは過去2年のコンサート通いの経験でわかってきたけれど、ここまで立派にオケが鳴っている状態はそう何度も経験してない。その数少ない似た経験のひとつが2013年に観たマゼール指揮ミュンヘンフィルのブルックナー3番だったので、そもそもブルックナーの曲がオケのこういう一面を必然的に引き出し、オケもそれに応えないと成立しない音楽なのかも、と思ったりもする。ヤノフスキの指揮はオーソドックスで、テンポを上げるところはキレ良く、溜めるところは溜める感じで僕の好みに近かったのも感動を大きくしてくれた要因。いずれにしてもここまで圧倒される演奏を聴けたことは本当に幸運だったと思える。長丁場でお尻が痛くなっても「ああ、このまま終わらずにずっと続いてくれたらいいのに」と願うような気持ちになれることはそうはないに違いない。これだけの充実感を味わったあとではアンコールなしは正解。

そしてもうひとつ感動的だったのは、演奏終了で指揮者がタクトを振り上げて停止したままの結構な時間がそのまま長い静寂になり、タクトを下ろすと盛大な拍手とブラヴォー。最後の瞬間まで音楽を味わう経験を初めてした。ブルヲタさんはフライングしがち(実際、ミュンヘンフィルのときは早かった)なので実はフライングを覚悟していたんだけれど、驚きの素晴らしいマナー。終演後の楽団員たちも達成感に満ちた良い表情を浮かべていて、観ている方も演っている方も素晴らしいコンサートだったと思う。あとブルックナーの8番、それほど好きじゃないと思っていたけれどやはりちゃんと聴いてみると、独特のオーケストレーションが施された、朴訥とした中にも力強い主張と緻密な構成を持った素晴らしい曲であることもよくわかった。

「それほど好きだったわけではなかった曲を好きになってしまう」ことと「翌日までコンサートの事が頭に残って仕事が手につかない」思いをさせてくれたら、僕にとって最高のコンサート。こういう思いができると、ああ、音楽聴いていて良かったと幸せな気分になれる。

日本人はネームヴァリューや肩書に左右されやすいことはよく言われていることで、有名人に弱く(有名なら中身に関係なく飛びつく)、少しマイナーな人には別の意味で弱い(知名度が低いと中身に関係なく無関心)ことがよく表れた結果が、この公演のチケット余り。そしてそのおかげでこうやって観ることができたのだから、(少々の皮肉を込めて言うのなら)その日本人気質に感謝しなくてはならないのかもしれない。

MEHLIANA - Brad Mehdau & Mark Guiliana in ブルーノート東京 2015

メルドー・ブルーノート2015

3月13日ブルーノート東京でブラッド・メルドーとマーク・ジュリアナの1stセットを観てきた。

メルドーはその人気故に日本ではホール規模の箱でしか観ることができないんだけれども、ブルーノート(つまり間近で)観ることができる機会はなかなかないとあってメルマガ配信で公演を知るや否やすぐに予約を試みた。さぞかし残席は少ないんだろうな、いや、もう売り切れかもと思っているとほとんどの席がまだ予約可能。これは、メルドーのチャレンジングなエレキの試みがあまり評価されていないことを示していると思う。

歴史を紐解くと名ジャズ・ピアニストがエレキに手を伸ばしている例は多々ある。チック・コリアはマイルス・グループ時代を筆頭にむしろエレクトリック・ピアノの方がカッコイイくらいだし、ハービー・ハンコックもエレキ主体の名作を量産してきた。ジャズ・ピアノの代表格とも言えるビル・エヴァンスでさえエレピに手を出しているくらいだ。電子キーボードが新しい楽器として出てきた時代を生きてきた人たちだから、新しいサウンドを求めてエレキに取り組むのは、意欲的なミュージシャンなら必然だったとも言える。

アコースティック・ピアノ、主にピアノ・トリオでの活動で名声を確立し、ストリングスを交えた独自のサウンドまで作り上げたメルドーがそんな先達と同じようにエレキで意欲的なチャレンジをしたくなったとしても不思議はない。そしてメルドーが選んだのは、先達と同じ時代の電子楽器を用いる道だった。

約1年前にリリースされたそのアルバムでは、フェンダーローズやシンセという古典的な電子キーボードをあえて使い、レトロなサウンドを展開している。ただし、楽器の用い方、サウンドの作り方は先達とはまったく異なっていて、単なるモノマネになっていないのは流石。相手をドラムだけにしたデュオという編成も、オリジナリティを持たせるための選択だったに違いない。

ではこれが成功しているかと言うと少々微妙だ。音として新鮮味がないのは明らかで、デュオとすることでベースのグルーヴも削ぎ落とすことになり、サウンドが単調になっている。紡ぎだされる音世界は、最初に聴いたときにはこれまでとイメージが大きく違っているために異質と感じるものの、よく聴けばどこをどう切り取ってもメルドーそのもの。機械的パスルのようなビートと弾むリズム感が入り交じるジュリアナのドラムも特徴的で、なるほどこのデュオならでは個性が確かにある。しかし、エレキを駆使していてもフレーズはやはりメルドー的、というのはチックやハービーがエレキになるとが別人格になるのと比べると、ピアノをエレピに置き換えただけのビル・エヴァンスに近いものがあってエレキを消化しきれていないという印象を持ってしまう。しかもそのエレキ化したサウンドは誰でも聴いたことのあるレトロな音なものだから「古い」と切り捨てる人がいるのもわかる。

実は僕もそれほどお気に入りというわけではない。メルドー味のエレキ・インダストリー・ミュージックであることは認めつつ、「これって新しいと言えるんだとうか」という疑問を打ち消すことができないからだ。まあでも、よく考えてみたらメルドーは「どうだ、斬新だろう?」と言っているわけではなく、もともと新しさを求めているというよりは単に自分の音楽をエレキで好き勝手にやってみたかっただけなのかもしれないのだから気軽に楽しめばいい、といスタンスで聴くのが良いんでしょう。それを間近で観れるのだから、そりゃあ行きますよ、ブルーノートに。

ライヴでもこのユニットの基本は変わらなかった。もちろんライヴならではの良い意味での緩さ、自由さは楽しめた。曲はおそらくほとんどが構成をカッチリと作られたものであり、2人は目配せをすることすらほとんどなく、しかし絶妙に絡み合った演奏を聴かせてくれる。それでも自由が与えられた部分は存分に好き勝手やっているように見えてライヴの醍醐味を味わうことができた。曲の尺も長く、最初から2曲続けて25分ノンストップというのもライヴならでは。

席がメルドーの真後ろで、ピアノを含めて4台の鍵盤を2本しかない腕でとっかえひっかえ弾いている姿をかぶりつきで見たことも含め、キッチリ作り込まれたCDを聴いただけではわからない懐の深さも感じることができたと思う。最近クラシックばかり聴いていたので、このライヴならではの自由さがなんとも楽しい。やはりジャズの「その場限りの空気」は生演奏でしか得られない。そんな当たり前のこと、そして重要なことを思い出したライヴだった。観に行って本当によかった。キーボードとドラムのデュオというのはよく考えるとマンハッタンのジャズ・クラブだったらどこかで誰かがやっていてもおかしくないもので、ある意味ニューヨークの日常から生まれ得る音楽の一部を最上のミュージシャンで魅せてもらったということもできると思う。

それにしてもニット帽、ストライプのシャツ、パンツをすべてグレーにして、まるでH&Mのマネキンが着ているようなおよそジャズ・ミュージシャンらしくない地味でラフな出で立ち(前日はAC/DCのTシャツを着ていたらしい)、それなのに所作はいつものジャズ・トリオのときと同じく手もみしながら腰を低くおじぎというのはちょっと違和感があったかも。

余談ですが、僕はメルドーの大ファンなので花道を通り過ぎるときに握手してもらったことは心躍る生涯の思い出になりました。

該当の記事は見つかりませんでした。