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趣味の人生を楽しむサラリーマンの日記

「Just Coolin' / Art Blakey and The Jazz Messengers」

Just Coolin' 202007

「Just Coolin' / Art Blakey and The Jazz Messengers」

[Recording Date]
1959/3/8

[1] Hipsippy Blues
[2] Close Your Eyes
[3] Jimerick
[4] Quick Trick
[5] M&M
[6] Just Coolin

Lee Morgan (tp)
Hank Mobley (ts)
Bobby Timmons (p)
Jymie Merritt (b)
Art Blakey (ds)

僕が最も好きなジャズ・メッセンジャーズのアルバムは、「At The Jazz Corner Of The World Vol.1」「同Vol.2」。いや、ジャズ・メッセンジャーズのという括りを外し、最も好きなジャズのアルバムと言っても過言ではない。アルバムのタイトル「Jazz Corner」とは当時のジャズクラブ、バードランドのことで、そこでのライヴを収録したのがこの2枚のアルバムということになる。

この2枚、何が素晴らしいかと言うと、僕が考えるジャズの熱気が凝縮されているところ。ブレイキーのプッシュが素晴らしいのが当然のことで、それに加えてリー・モーガンの迸るトランペットと、ハンク・モブレーの控えめながらもノッたテナーが素晴らしい。ボビー・ティモンズ安定の黒いピアノと、独特の率直なグルーヴ感を創出するジミー・メリットのベースも非の打ち所がない。そして、ライヴならではの荒っぽさと熱さが、ジャズ本来の魅力を最良の形で伝えてくれる。この2枚を聴いて何も感じないのであれば、その人にはきっとジャズは必要ない音楽であるとさえ僕思っている。

この時期のジャズ・メッセンジャーズは、大ヒット作「Moanin'」録音から4ヶ月後、その音楽的な立役者であるベニー・ゴルソンが抜けてハンク・モブレーが復帰したという時期。ブルーノートのプロデューサー、アルフレッド・ライオンはモブレーの作曲能力を高く評価していて、このライヴ・アルバムには3曲のモブレーのオリジナルが含まれている。

ジョン・コルトレーンやソニー・ロリンズのような力強さこそないものの、僕はハンク・モブレーのテナーをこよなく愛好している。モブレーの書く、シンプルでいながら一捻りしてあるオリジナル曲もお気に入り。モブレーのオリジナル曲は、他の人に採り上げられることがほとんどなく、モブレーのリーダー・アルバムでもっとも有名な曲は?と訊かれたら1番手に挙げられる "Recado Bossa Nova" がオリジナル曲ではないことも含めて、多くの良い曲を書いていながら日の目を見ることはほとんどないという悲運の人でもあるけれど、歌心溢れるテナーも、音楽家としての才能も、もっと評価されていいんじゃないかと思う。

「At The Jazz Corner Of The World」に収録されているモブレーのオリジナル曲は、しかし、他のどのアルバムでも聴くことができない。アルフレッド・ライオンが進言したとはいえ、ライヴ・アリバムのために3曲も書くものだろうかという疑問はぼんやりと心の隅に残っていた。

「At The Jazz Corner Of The World Vol.1」当時、そのモブレー在籍時ジャズ・メッセンジャーズのスタジオ録音が、この2020年に蔵出しされた。ブレイキー、モーガン、モブレーのファンとしては小躍りせずにはいられない、ちょっとした事件である。まず、往年のブルーノートのイメージを踏襲したジャケットが素晴らしく、往年のブルーノートのジャズが聴けるという心構えにさせてくれる。

そこには上記3曲のモブレーのオリジナル曲が収録されている。そうか、やはりスタジオ・アルバムを制作していのか、そのために3曲を用意したんだな、と合点がいくのと同時に、なぜスタジオ盤リリースされなかったんだろうという疑問が今度は浮かんでくる。

アルフレッド・ライオンは、アルバムでのリリースを前提に1枚分録音したとしても、内容が良くないと判断したものはリリースしないプロデューサーだった。内容が良くないという判断は、その人のリーダーアルバムとして、その次代において、オリジナリティ、独自性があるか、アルバムとしての主張があるものになっているかに主眼が置かれていたように思う。従って、演奏内容が良くても発売が見送られたもの、何年も後になってからリリースされたものも少なくない。

では、なぜ「Just Coolin'」はリリースされず、録音70年後に発売されることになったんだろうか。聴いてみてそれは割とすぐにわかった。熱量高い「At The Jazz Corner Of The World」と比べると、スタジオ録音故に、抑制の効いた演奏になっている。僕が心を奪われていたパッションは前面には出てきていない。「At The Jazz Corner Of The World」に収録されている [1][2] は、少しテンポを早くして小気味良さが出た演奏。言い換えるとアッサリ味になっている。演奏のクオリティはもちろん悪くはないけれど、そうかと言って眼を見張るほど凄いわけでもない。全体を通して心に引っかかるところがあまりない。ブレイキーのドラム、シンバルの音がやや抑え気味のバランスであることもそう感じさせる要因かもしれない。

アルフレッド・ライオンは、当然レコードとして発売することを前提にスタジオに入ったものの、もうひとつ納得することができなかった。このメンツはライヴの方が本領を発揮する。だからライヴ・レコーディングをしてみよう。やはりライヴ録音の方が素晴らしかった。「Just Coolin'」を聴くと、そんな勝手な想像をしてしまう。

と、なんだかネガティヴなことを書いてきたけれども、充実期のジャズ・メッセンジャーズゆえに演奏は悪いはずはなく、モーガン、モブレーのフロントラインが好きな人はやはり必聴でしょう。暑苦しくない方が好みという人にはこちらのスタジオ録音の方が良いと感じられるかもしれない。多少抑え気味であったとしても、この時期のモーガンの自由奔放な吹きっぷりは聴き惚れてしまう。ライヴ盤には収録されていなかった [3][4] が想定外に聴きどころで、1枚のアルバムとして聴いてクオリティが低いということはまったくない。そもそも、ブレイキーのブルーノート時代の録音が、2020年になって新規で聴けるというだけで幸せなこと。ありがたく楽しませてもらいます。

Bud Shank Quartet featuring Claude Williamson

Bud Shank 202005

「Bud Shank Quartet featuring Claude Williamson」

Recording Date: 1956/11/7,8

Members:
Bud Shank (as, fl)
Claude Williamson (p, celeste)
Don Prell (b)
Chuck Frores (ds)

気がつけばジャズを聞き始めて20年くらいになろうとしている。それまでハードロックやプログレッシヴ・ロックというアグレッシヴな音楽を愛好していた僕がジャズにハマるようになったのは、表現方法は違えど、内に秘めたパッションを昇華させるジャズに魅せられたから、という理由による。ジャズというと一般的なイメージは http://buhaina.blog.fc2.com/blog-entry-85.html で書いたような誤解があり、僕もジャズを聴き始める前までは似たようなイメージを抱いていた。でも、実はそうじゃない。ジャズは熱い音楽と分かり始めてからは、どんどんのめり込むようになった。マイルス・デイヴィスの常に先を見据える先進性とスリル、コルトレーンの濃厚で暑苦しい音楽性は特に聴き応えがあるし、アート・ブレイキーやリー・モーガンなどのオーソドックスでも熱さ迸る激しい演奏にも圧倒される。

もちろん、一般イメージのような、しっとりと落ち着いた、上品な表現もジャズのもうひとつの持ち味であり、そこにも魅了されていた。ただ、それでもやはりエグく、スリリングで暑苦しいジャズに僕は惹かれる。

しかしながら、ジャズにハマりはじめたころから20年、30代前半だった年齢が50代になれば人間は当然好みが変わってくる。以前ほど脂っこい肉を食べなくなり、蕎麦や煮物が美味しいと思うようになるのと同じように。昔から嫌っていたクラシックを聴くようになったのも、そうした年齢による変化と無関係ではないでしょう(クラシックにはクラシックの枠の中で、熱さ、鋭さ、スリルがそれぞれあることが今ではわかるようになって聴いているわけですが)。

だから以前ほどマイルス(特に70年代)やコルトレーン(特にインパルス時代)は聴かなくなってきた。もちろん聴けば今でも素晴らしいと感動する。でもこういう濃いジャズばかり聴いていると胃もたれするようになってきた。

するとあまり聴いていなかったピアノ・トリオが結構染み入るようになったりしてくる。また、オーソドックスな50年代のハードバップ(ハンク・モブレーとか)が心地良くなってくる。もうひとつ、これまで軽視してたのに、すっと染み入るようになってきたのがウェストコースト・ジャズ。正直言ってこれまでほとんど聴いていない。デイヴ・ブルーベックのあの名盤だって殆ど聴かないし、強いて言えばアドリブ奏者として最高峰の一人といえるアート・ペッパーを多少嗜む程度なんだけれど、そのペッパーなんて最近は特にいいなあと思えるようになってきた。

そんなある日、不定期にFMで放送されている「村上RADIO」で流れた、バド・シャンクのフルートがとても心地よく耳に入ってくる。クラシックを聴くようになってからフルートの音の魅力がよりわかるようになったせいもあるかもしれないけれど、素朴なジャズのフルートがなんとも魅力的に聴こえてくるではないですか。

というわけで早速「Bud Shank Quartet featuring Claude Williamson」を購入して聴いてみた。実は、バド・シャンクは名前すら知らなかった。

まず、56年のモノラル録音ながら音が良い。バド・シャンクはアルト・サックス奏者でもあり、曲の中でも持ち替え得て吹き分ける。1曲目の「チュニジアの夜」は、ディジー・ガレスピーの代表曲ということもありトランペットを激しく吹く演奏が多いイメージだけれど、フルートでテーマ、アドリブを軽快に吹く。物足りないどころか、実に軽妙で生き生きとした演奏で、この曲がこんな形で輝くものなのかと驚かされる。アルト・サックスはややポール・デスモンドを思わせるトーンで、しかしデズモンドのようなスムーズなフレージングではなく、派手ではないもののブローするところはしっかりブローする、ある意味ジャズ・サックスらしいバタ臭さもあってこれも悪くない。サックスだけでは一級品とまでは言い難いけれど、フルートがそれを補って余りある魅力を放っている。Featuringのタイトルの通り、クロード・ウィリアムソンという初めて聴くピアニストもスウィング感やメリハリがあってなかなか聴かせてくれる(作曲でも貢献)。ベースとドラムも演奏のクオリティが高く、この時代の西海岸ジャズはこんなにレベルが高かったのかと、自分の無知を恥じたくなってしまう。曲もスタンダート、ブルース、モーリス・ラヴェルまで幅広く、1枚のアルバムとして通して楽しんで聴かせる構成になっている。

こういう、耳あたりが良く、クオリティの高い演奏を聴くと、やっぱりジャズっていいなあと当たり前の言葉が出てきてしまう。先進的であったり尖った個性を主張したりしなくても、いいものはいい。有名ミュージシャンだけが良い録音を残しているわけではない。チェット・ベイカーやアート・ペッパーだけがウェストコースト・ジャズではない。そんな当たり前のことを思い知らされる1枚です。

ブラッド・メルドー・トリオ 2019年日本公演

メルドー201906


2019年6月1日、国際フォーラムCホールにて、ブラッド・メルドー・トリオのコンサート。

ピアノ・トリオで観るのは、2006年、2012年に続いて今回で3回目で前回からは7年ぶり。メンバーはいずれも、ラリー・グラナディアとジェフ・バラード。マーク・ジュリアナとのプロジェクト、ジョシュア・レッドマンとのプロジェクトはジャズ・クラブで観ることができたブラッド・メルドーも、人気の高いピアノ・トリオとなると日本ではホールが会場となる変わらぬ人気ぶりです。

席は2列めで、メルドーを真後ろから見る形という好ポジション。過去の2回はオペラシティ大ホール、サントリーホールというクラシック専用のホールで、反響音が強すぎる感があったことを考えると国際フォーラムのCホールは、キャパシティと合わせて良い条件で、楽しみにして会場へ。

前回、2012年のときは抽象的でスローな曲がほとんどとあって、なんだか掴みどころのない演奏で、船を漕ぐオーディエンスも少なからず見かけた、少々自己満足的なコンサートだったことを思い出す。

結論から言うと、今回は普通のジャズ・ピアノ・トリオらしい演奏を楽しめる内容でした。ただし、近年のメルドーはあまり指を忙しく回す演奏を志向しておらず、かつでのArt Of Trio時代とはスタイルが変わってきていて、数曲演奏されたアップテンポの曲を含めて内向的な演奏に終始。もちろん、これはこれでメルドーの魅力ではあるんだけれど、例えば「Brad Mehldau Trio Live」の "Black Hole Sun" のような自由度の高い演奏を織り交ぜるなど、幅をもたせてくれても良かったんじゃないかな、という思いも過ってしまう。ちなみに、Twitter情報によれば、前日、サントリーホールでのコンサートはセット・リストもまったく違っていて、演奏はもっと柔らかい内向的なものだったという意見と、この日の国際フォーラムの方が落ち着いていたという意見が混在していました。

もちろん、演奏の質は高く、特に今回はジェフ・バラードの見せ場も結構あり、ジャズらしい楽しみがあって、内容について不満はちょっとした個人的な思いに過ぎません。満足した観客も多かったんじゃないでしょうか。コルトレーンの "Inch Warm" を面白く料理したり、メルドーが演奏するのは初めて聴く"When I Fall In Love" がメルドーらしいスタイルで美しく演奏されるなど、聴きどころはもちろんありました。

それでも僕は思ってしまう。このメンツでの演奏ももうだいぶ長くなり、ややマンネリ化しているのも事実だと思います。ピアノ・トリオでできる演奏スタイルはやはりどこかで限界が来てしまうもので、それはビル・エヴァンスやキース・ジャレットでも避けられなかったところ。4月に観たチック・コリア・トリオが、その時、その場での呼吸を感じさせるものだったのに対して、曲が始まるときと終わるとき以外は目配せもしない3人の、良く言えば完成された、悪く言えば型にハマった演奏だったとは言えると思います。

あと、僕自身がピアノ・トリオを素直に聴き入れる心持ちでなかったことが心の底から楽しむことができなかった理由かもしれません。

なんていろいろ書きましたが、やはりこの3人でなければ聴けないクオリティの演奏だったことは間違いなく、悪い演奏だったなんて言うつもりはありません。今後、このトリオがそういう方向に進ん行くのか、楽しみにしたいと思います。

チック・コリア @ブルーノート東京 2019

チック・コリア201904

2019年4月6日(土)ブルーノート東京、チック・コリアの2ndセット。

Chick Corea (p)
Chiristian McBride (b)
Brian Brade (ds)

http://buhaina.blog.fc2.com/blog-entry-406.html で記事を書いたチック・コリアのトリオを間近で見る機会に恵まれた。

ジャズを聴き始めたころ(2002年ころ)から、歴史に名を残すビッグネームたちのライヴにはできるだけ足を運ぶようにしていた。いつ観れなくなってしまうか(お亡くなりになってしまうか、引退してしまうか)わからないからという理由からだったんだけれども、チック・コリアはまだそれほど高齢ではなかったし、それほど好きと言えるほどではなかったからなんとなく後回しにしていた。しかし、クリスチャン・マクブライドとブライアン・ブレイドとのトリオであれば、そんな理由でなくても観てみたい。

チックのピアノに合わせてオーディエンスにハミングさせるという和やかな雰囲気から "La Fiesta" になだれ込むというスタート。演奏に入ると3人の緊密なプレイに目が釘付けになってしまう。クリスチャン・マクブライドの高速かつ正確かつメロディックなベースと、無限の引き出しを持つブライアン・ブレイドのツボを抑えたドラムで紡がれる演奏はCDで聴けたあの演奏そのもので、思わず身を乗り出して聴いてしまう。そうは言ってもそこはジャズのライヴ。CDの、ある意味カッチリとした演奏(CDはやはり繰り返し聴くに耐えるキッチリした演奏を選んでいる)とは一味違う緩さもある。その緩さは、演奏が弛緩しているということではなく、良い意味での遊びを持たせたもので、演奏の質はCDで聴けるものとまったく遜色はない。もちろん、CDに収録されていた "This Is New" "Alice In Wonderland" なども、その場限りの空気で演奏される。

この日観たステージでは、CDに一部にあったようなフリーな展開の曲がなく、自作として(書いたけど譜面を失くしてしまったと言いつつ、8ページの譜面をピアノに置いていた)スパニッシュ・ソングと紹介していた曲を中心に形式がキッチリした曲で占められていたけれど、自由度は至るところにあって、やはり一瞬たりとも目が離せない。

上手い演奏者が揃えば良い演奏になるというものではないことは誰もが知るところ。でも、この3人のレベルで、阿吽の呼吸で、付かず離れずの距離感で演奏されると、ああ、やっぱり最高レベルの演奏者の絡みというのは特別なものになるんだと思わずにはいられなかった。

チックの音楽は、親しみやすさがあって、それは実際にライヴを観てみるとチックの観客との距離感の近さと合わせてより感じることができる。(こう言ってはナンですが)自らをオーディエンスと一線を画す位置に置いているキース・○ャレットとはずいぶん違う。凡百のプレイヤーができない高度な演奏を楽しそうに余裕をもってこなしてしまうマクブライドとブレイドのムードもそうしたチックの親しみやすさがもたらしていることを、生の演奏からひしひしと感じてしまった。

ジャズのおおらかさ、楽しさを持ちながら、最高レベルの音楽性と技術も備えた演奏を聴いていると、気がつけば1時間15分くらいがあっという間に過ぎてしまっていることに自分でも驚いてしまった。そこからアンコールにさらに応えてまた余裕たっぷりにモンクの曲で締めてくれて大団円。

とにかく、いいもん聴かせてもらいました、という感想しか出てこない。これまであんまり真面目に聴いてこなかったチック・コリア、いまさらだけどもっといろいろ聴いてみようかと思います。

マデリン・ペルー @ブルーノート東京 2019

マデリン・ペルー201903-2


2019年3月19日(水)ブルーノート東京、マデリン・ペルー2ndセット

メンバー:
Madeleine Peyroux(vo, g, uke)
Andy Ezrin(key)
Jon Herington(g)
Paul Frazier(b)
Graham Hawthorne(ds)

しばらくぶりのジャズ系ライヴだった1月のクリス・ボッティ公演でしたが、ジャズへの関心が薄れたということではなく、是非観てみたいと思えるアーティストがブッキングされれもちろん足を運びます。

以前観た映画「Re:LIFE」の冒頭で、ちょっと古くも懐かしいシンプルなサウンドが流れてきて「おっ、いいねえ」と思っているとそこにスモーキーな女性ヴォーカルが乗ってくる。これがなんとも素晴らしく、一発で魅せられてしまった。その歌の主こそがマデリン・ペルー。早速CDを購入し、それ以来、心地よいサウンドと歌を楽しませてもらっている。

キッチリとジャンル分けする人には、これはジャズではないと言いそうなサウンドと歌で、僕もジャズ寄りのポップ・シンガーという印象を持っている。つまり、カテゴリー的にはノラ・ジョーンズと同じ土俵。知名度に大きな差があるのは、バックの演奏の違いと、声、唱法の違いによる親しみやすさ、あとは外見イメージとスター性の差といった感じで、マデリン・ペルーの方がずっと渋い。まあ、ジャンル分けなんていうレッテル貼りは先入観と個人のあるべき論の押し付けでしかないので大した意味はありませんが。

彼女の声と歌い方は、よく言われているようにビリー・ホリデイの影響が明らかで、しかし、差別や人生の不幸を背負った故の芯の強さとシリアスな重みがどこか漂うビリー・ホリデイと違って、聴き手に開かれた大らかな明るさがあるから聴きやすい。ジャズに執着することなく、あくまでもベースにしながら心地よく聴ける、それでいて歌の表現力は一級品というのがマデリン・ペルーの魅力。一般的知名度はなくとも、前述の「Re:LIFE」だけでなく、映画「シェイプ・オブ・ウォーター」では一番印象的なシーンで使われているように、目利きには良く知られた通好みのアーティストだと言えるでしょう。

生で見るマデリン・ペルーは、飾ったところや華がなく、(こう言っては失礼ですが)ふつうのおばさんという風情。ジャケットやアーティスト写真と比べると「おっとっと」と思うくらい小太りな感じでスターのようなオーラは一切ありません。あまりそういうショービジネス的な世界に関心があるようには見えず、好きな歌をただ歌うというところがジャズ的。ここで言うジャズ的というのは、そもそもジャズなんておカネが儲かるものではなく、日々、演奏したり歌ったりすることで生計を立てている人、つまりジャズを演ることじたいが生き方になっている人達のことを言っています。いわゆるポップスターのようなオーラがないわけですが、歌こそが人生になっているという潔さが清々しい。

実際にライヴで聴くと、歌い方はかなり崩している、というかそもそもちゃんと歌おうとしていない。音程もリズムのとり方も自由気ままで、マイクとの距離のとり方もあまり気にしていないのか、モニター越しと生声が入り交じる場面もあった。もちろん、正確に歌えないという不安定さではなく、CDのようにキッチリ歌おうとしていない。なんというかストリートや場末のクラブで歌っているアマチュア歌手の延長のような、気負いやパフォーマンスのない歌を聴いて、ああ、これが普段着の彼女なんだなあと思わされます。

音楽的には、全体的にブルースの影響を個人的には感じました。実際にブルース色がある曲も1曲演奏していましたが、そういった表面的なものではなく、ステージを通して彼女の根底にブルースというアメリカが生んだ音楽がしっかりと根づいている。これはCDからは感じられなかったところで、こうしたところも普段着の彼女と感じさせた一因かもしれません。そういう意味で言うと、CDはガッチリとプロデュースして作られたものであることが良くわかります。

マデリン・ペルーは時期によってライヴでのバンド編成が変わる(ドラムなしとかだったりする)ようですが、今回はギター、ベース、キーボード、ドラムというオーソドックスな編成で愛聴盤の「Careless Love」「Half The Perfect World」のサウンドを聴けたことが嬉しかった。バンドメンバーも手堅く、ツボを抑えた演奏で歌伴としては申し分なし。あと、大好きな"La Javanaise"を生で聴けた、あのムードの中にいられたことは至福の体験でした。

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