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趣味の人生を楽しむサラリーマンの日記

クラシックのコンサート 座席あれこれ

サントリーホール202008

新型コロナウィルスの影響で、コンサートに行くこともままならなくなってご時世ですが、今回はコンサートホールの座席観について書いてみようと思います。

海外オーケストラのコンサート通いを続けているとチケット代金もそれなりになります。単価が高いから、いつもS席ばかりを選ぶことはなかなか難しい。これまでに60回ほどコンサートに通ってS席で観たのは12回程度。価格設定が低めのコンサート、あるいはどうしても当日券で観たかったとき以外にS席を買ったことがありません。

できるだけ出費を抑えてつつ、それなりに良いと思える席を、という観点でこれまでの体験から座席の良し悪しについて書いてみたいと思います。

【箱型(シューボックス型)ホール】
鑑賞経験のあるホール:ウィーン楽友協会、東京オペラシティ。

1階の特徴:ステージを見上げるオーソドックスな景観。ステージに近い前方の席なら音の迫力はかなりのもので、弦が擦れるニュアンスまで聴き取ることができる。基本的に正面から聴く形となるため、楽器による響きの差は小さいものの、前方(5列目より前くらいか)左右端の席は影響があるかも。一方で、ステージを見上げる位置ゆえに音が上に抜けていく感覚がある。ホールによって多少違うものの真ん中あたりより前方の列だと木管、金管奏者が見えない(もしくは見づらい)場合が多く、ビジュアル面での面白さは半減してしまう。

2階正面席は何と言っても正面から音を受け止めることができることがメリット。各楽器の音のバランスが良い上に視点が高いので各パートの奏者をまんべんなく見渡すことができる。ただし後方列になると距離が遠くなって視力が弱い人だと個人奏者の動きはわかりづらくなる。また後方席はやはり音がやや遠くなり、迫力が少し減退する。2階前方はS席でも最良と言われるだけあって、視界、音響、ともにベスト。左右両端席になったとしても音響的なデメリットはそれほど感じない。

また、箱型ホールの2階以上左右には横向きに座る席も数列ある。ここはステージのすぐ横か後方かによって違いはあるものの、ステージへの死角が大きい席があり視界重視の人には向いていない(楽友協会は作りが古いためか席の傾斜が浅く、サイド席は2列目でも死角が多くなる)。また、この左右席はステージから離れるほど、ステージを観るためには首を横向きにする必要がある(首が疲れる)ため、個人的にはもっとも選びたくない席という位置づけになっている。

ちなみに楽友協会について補足すると、2階正面席でも座席の傾斜が緩く、女性含め大柄な人が少なくない現地では後ろの列になるほど視界が悪いため、オペラシティと同等の視界を期待するとガッカリすることになるかもしれない。また、ステージ上の列の段差が大きいため、1階席でも12列名以降あたりであれば木管奏者までしっかりと見える。


【多目的型ホール】
鑑賞経験のあるホール:東京文化会館、東京芸術劇場、NHKホール、すみだトリフォニーホール。

箱型ホールとほぼ同等の特徴を持つ。1階席でも段差を大きめに取って座席位置が上になっている場所(たとえば東京文化会館の左右端)だと木管金管奏者までよく見えて音が上に抜ける感覚も少なくなる。3階以上の席がある場合、目線が上がるだけで音響的には不利な印象はなく(むしろ良いという意見も少なくない)、視界面では何階かよりも席が前方であるかの方が重要かもしれない。

尚、このタイプのホールは音響的には残響が少なく、オケの響きが削がれると言われるのは確かにその通りで、しかしながら音楽が台無しになるほど響きが死んでいるとは僕は思えない。もちろんクラシック・コンサート専用ホールの方が望ましいとはいえ、響きがデッドという世評に流されて聴いてみたいプログラムなのに行くのを止めるのはもったいない。


【ヴィンヤード型ホール】
鑑賞経験のあるホール:サントリーホール、ミューザ川崎、ベルリン・フィルハーモニー。

1階席は箱型ホールと特徴に違いはあまりない。サントリーホールの場合、1階は最前列付近や最後方、左右両端2列あたりを除くとすべてS席という良席扱いながら、フロアの傾斜が緩やかであるために後方列に行っても視点はあまり上がらない。よって、音が上に抜ける感覚は後方席でも感じる。木管金管奏者の顔が見えてくるのは通路より後ろの列あたりくらいから。

2階席は場所によって特徴が異なる。
2階ステージ左右両隣に配置されているRB/LBブロックは、演奏者が目の前にいて誰が何をしているのか視力に自信がない人でもハッキリとわかる。音も近く、迫力満点かつ各楽器のニュアンスまでしっかりと聴き取れる。また、指揮者の所作もじっくり見れる上に、場合によっては目に見えない指揮者とオケの信頼関係を感じ取れる(ような気になれる)ところも魅力。

一方、ステージ左右の席は真下に位置する奏者(打楽器、コントラバス、ヴァイオリンやヴィオラ後方列奏者であることが多い)は死角になってしまう。木管は問題なし、金管はやや音がくぐもるように感じることがあり、L側席だと場所によってはホルンが直撃の位置になる場合もある(その場合でも五月蝿くは感じないけれど)。弦楽器は、背を向けて座っている奏者と正面を向く奏者で聴こえ方がやはり少し違ってくる。個人的にはそのあたりの響きのデメリットよりも、オケの機微がわかるメリットの方が大きいと思っている。RC/LCブロックだと後方から見ている感じが強くなり、金管楽器が向こう側に響く感じはあるものの、意外と不自然な感じは少ない。ただし、歌手のソリストがいる場合は声が完全にアチラ側に行ってしまう(ベートーヴェンの第九で体験)感じは強くなってしまう。S席となるRA/LAブロックは横とはいえ、前方に位置するため音響特性の問題がなく、音が近く、視界も良いという、個人的には大変お勧めの席(皇族の方が座るのもRA席であることが多い:入退出の出入り口に近くてセキュリティ上望ましい理由もあるようですが)。

ベルリン・フィルハーモニーの場合、座席の傾斜が結構あり、1階でも10列目以降くらいだとだいぶ高い位置に来るため、木管金管奏者を一瞥できる。サントリーホールと違うのはステージ横方向、後方向にも座席が上方まで延びていてまるでホールの中央にステージがあるかのような作りになっているところ。どこの席からでも見えやすく音が届きやすいことを考慮しているように見える。

もうひとつはミューザ川崎。座ったことがあるのは2階正面やや左方。このホールは1階席のエリアが小さいために2階でもステージに近く、視点の高さもオケ全体を見渡せる素晴らしい席だった(S席)。このホールも座席ブロックを細かく分けて各ブロックを小刻みに配置しており、ベルリン・フィルハーモニーと同等の狙いを持った設計に見える。両方ともに見やすく音響に優れた素晴らしいホールだと思う(上方の遠い席の経験はありませんが)。


【というわけで個人的な好み】
基本的には2階正面最前列が望ましい。シューボックス型ホールは2階だとステージとの距離が離れてしまうため、1階の中央あたりがベスト。ただし、これらの席は当然S席でチケット代がお高くなってしまいます。一番好きなのは、サントリーホールのRB/LB、またはRC/LCのRB/LB寄りの席です。もちろん楽器によっては響きが不自然になるところもあるし、RC/LCまで後ろになると歌手の声は完全に向こう側に行ってしまいます。また管楽器を後方席の上方に配置するような曲(ヤナーチェクのシンフォニエッタなど)の場合もおそらく響きが不自然になるであろう、というデメリットもありますが、なんといってもオーケストラの音を一番身近に感じることができる至近距離で、生演奏の醍醐味が感じられるところが魅力です。演奏者の表情もわかるので、演奏後にどのくらい彼らが満足しているのかという雰囲気も感じ取ることができます。それていてチケット代はS席よりは控えめです。サントリーホールの場合、C席で正面だと2階後方の隅だったりしますが、オケの音が遠くて細かいニュアンスがわかりずらいため、同じ金額を出すのならRC/LCの方が満足度が高いと思います。

ちなみにコンサートホールでバランス良く聴ける席というのは限られているもので、また、かなり距離が近い席でなければ、楽器ひとつひとつのニュアンスまでは聴き取れません。カラヤンが録音を残すことに熱心だったのは、座席によって最善の響きではバランスで聴けないというクラシック・コンサートの不平等さを解消したいという思いもあったという話も聴いたことがあります。

それでも、クラシック、特にオーケストラは生演奏で聴いたほうが断然感動できます。自分好みでお手頃に楽しめる席を見つけることができれば、より多くの感動に巡り会える機会が増えるというものです。クラシックの生演奏に触れたことがまだない方は、是非コンサートに行ってみてください。ロックやジャズとは全く違う、本当の生楽器、人が出している音を全身で感じることができます。クラシックのコンサートほど贅沢な音楽体験はないです。

マリス・ヤンソンス、逝く

ヤンソンス201912

もっとも好きな指揮者、マリス・ヤンソンスが亡くなってしまった。

クラシックを聴き始めた頃、よく聴いていた指揮者はカルロス・クライバーとレナード・バーンスタインだった。今でも思うんだけれど、クライバーやバーンスタインの演奏は、音楽の喜び(英語で言うなら"JOY")に溢れている。真面目で厳格な演奏も良いけれど、クラシックあろうと音楽は娯楽だと考えている僕にとって、クライバーとバーンスタインの音楽はとても馴染みやすかった。

2012年のある日、ヤンソンスとバイエルン放送交響楽団がベートーヴェン交響曲チクルスがNHK BSで放送され、クラシック愛好家の間で話題になっていた。その時点ではヤンソンスの名前もオケの名前も知らないクラシック初心者だった僕は聴いてみて「あまり特徴がなくて面白くない演奏だな」と思ったことを覚えている。人気も評価も高い指揮者とオケって、こういうものなの?と正直なところ思ってしまった。

その後、いろいろな演奏(CD)を聴いた。クレンペラー、ワルター、カラヤン、ベーム、マゼール、チェリビダッケ、ショルティ、セルといった往年の大指揮者の演奏は個性豊かで、大げさなが芸風とアクの強さが魅力だった。それらと比べると現代の指揮者は、そこまで癖のある演奏をしないことは、クラシックを聴き始めた初期のころからなんとなくわかっていた。まだクラシックの知識のないころには昭和の時代の大指揮者の演奏の方が面白く聴けたものだった(CDも安く買えるし)。

多くのCDを聴き、生の演奏をたくさん聴くようになると、昭和の大指揮者の主観的かつ恣意的な節回しの演奏は古いと徐々に感じるようになってきた。わざとらしく曲に表情を付けたり、大げさに音を鳴らしたりする手法は、現代となっては垢抜けしていないと感じるようになっていった。もちろん古い演奏には古い演奏ならでは良さもあるけれど、洗練されておらず、どこか野暮ったい。現代の演奏は過剰な表情付けをすることなく、見通しが良く、自然な演奏がトレンドになっている。

21世紀に入ってからの現役指揮者の中で、愛聴してきたのがクラウディオ・アバドとマリス・ヤンソンスだった。2人共、作為的にテンポを揺らしたり、大げさにオケを鳴らしたりしないから「つまらない」と評する人もいる。僕も正直に言うと最初はそう思っていた。でも聴いているうちに、オケをしっかりコントロールした上で豊かに歌わせることにかけて、アバドとヤンソンスは昭和の指揮者よりも一步進んでいて、新しい演奏スタイルで素晴らしい音楽を作ってきた人だと思う。確かにアバドやヤンソンスの演奏にはドロドロとしたエグ味や情念はないかもしれない。でも、自然で豊かに歌わせるという方向性で、ここまで音楽を高いレベルに引き上げて聴かせることができる指揮者は、そうはいない。

最初にヤンソンスの演奏に触れたのは、2013年東京文化会館でコンセルトヘボウ管弦楽団での演奏で、メインはチャイコフスキーの交響曲第5番。コンサート通いを始めたばかりの時期で、知っている曲もあまり多くない中で、わかりやすく馴染みやすいチャイコフスキーを聴いてみようというだけの動機で選んだコンサート。ここで初めて知った。オーケストラの音楽というのはこんなに凄いのかと。翌日は、会議の時間を間違えるほど頭がボーッとしていたことを覚えている。

次は、2015年に楽友協会で聴いたウィーン・フィルとのマーラー交響曲第3番。非日常の会場のスペシャル感が後押ししたこともあってか、100分もの大作にも集中力が一切途切れないくらい引き込まれた。

2016年に聴いたバイエルン放送交響楽団のマーラー交響曲第9番は、第1楽章から圧倒され、第4楽章の終盤ではついに涙がこぼれ落ちてくるほど感動する、生涯忘れられないコンサートだった。

コンサート通いをしてきて、素晴らしい演奏に大満足して会場を後にしたことは沢山あったけれど、心底感動したコンサートとなると流石に数えるほどしかない。ヤンソンスはそんな感動できるコンサート、生涯忘れることができない音楽を3回も聴かせてくれた。まだまだ聴いてみたかったという思いはもちろんあったけれど、そんな素晴らしい体験をさせてくれたヤンソンスには感謝の言葉しかない。

心からご冥福を祈りたいと思います。

パーヴォ・ヤルヴィ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2019年日本公演

ヤルヴィRCO201911


2019年11月18日
サントリーホール
【演目】
ワーグナー: 楽劇「タンホイザー」序曲
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第2番(ラン・ラン)
(アンコール)メンデルスゾーン:『無言歌集』より「紡ぎ歌」
ブラームス: 交響曲第4番
(アンコール)ブラームス:ハンガリー舞曲第3番、第1番

僕がもっとも好きなオーケストラ、コンセルトヘボウ管弦楽団は、音楽監督不在の状況が続いている中、今年はパーヴォ・ヤルヴィを指揮に迎えての来日となった。まあ、ガッティがあまり好きではなかったので、ガッカリ感はないんですが、早く後任の良い音楽監督が就くことを願いたいもの。

パーヴォは、ドイツ・カンマーフル・ブレーメンでのシャキシャキした演奏が印象深く、軽くて薄っぺらと言う人も少なくない。それでも以前音楽監督を務めていたパリ管や、現N響での演奏を聴いているとそこまで軽々としたした演奏になっているわけではなく、やはりオケによってある程度スタイルを変えている。では、コンセルトヘボウをパーヴォはどう振るのか。

「タンホイザー」は個人的に好きな曲で、以前、マゼール指揮ミュンヘン・フィルで聴いたパリ版ではなく、一般的な短いバージョン(ウィーン版?)。それでも、オケの実力を存分に感じさせる見事な演奏で、ワーグナーならではの独特のオーケストレーションを堪能。何しろ冒頭、完璧なホルンと木管のハーモニーとアンサンブルの見事なことと言ったら筆舌に尽くしがたい。

次は、テレビでの露出度が多く、旧来の評論家筋にはあまり評判がよろしくないラン・ランによるベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番。実際には第1番より先に作曲され、編成が小さい(ティンパニもない)、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中でももっとも古典的で、プロコフィエフやラフマニノフのような高度な技術を要求されるわけではないこの曲をどのように演奏するのか。第2楽章でピアニシモの透明感溢れる美音を聴かせる表現力をしっかりと聴かせつつも、およそ譜面には書いていないであろうケレン味たっぷりの演奏で、格調高い芸術と構えて聴く人はきっと顔をしかめたに違いない。でも、僕はもともとクラシックであろうとも音楽は娯楽だと考えているので、エンターテイナーぶりをニヤニヤしながら楽しんで聴くことができた。皆が皆、ラン・ランのようになってしまったら、それもちょっと違うだろうとは思うけれど、楽しそうに弾くラン・ランのスタイルは唯一無二で、人気がある理由もよくわかった。とにかく、こんなに個性的なスタイルでベートーヴェンを弾く人はいないでしょう。

メインは、これまた個人的に大好きなブラームス交響曲第4番。2年前にコンセルトヘボウでブラームスの交響曲第1番を聴いたときに、その演奏の素晴らしさを認めつつも、色彩感や温もりが表に出すぎていて、ブラームスにはもう少し渋みが欲しいという贅沢なことを感じたものだった。更に渋みが欲しいと思わせる第4番をどのように聴かせてくれるのか。サウンドはその2年前の印象とは違ってとくに弦の音に枯れた哀愁を伴っていて好印象。それでもドイツのオケのような音ともまた違うコンセルトヘボウならではのサウンドであるところが素晴らしい。ただし、ビロードのようなと評される滑らかさはやや損なわれていて、第1楽章と第4楽章の終盤をかなり速いテンポにしていたところが好みに合わず、感動にまでは至らなかったのは要因はそのあたりにありそう。ここは好みの問題でもあるので、まあ、仕方ないでしょう。それにしても木管奏者は相変わらず漏れなくハイレベルで聴き惚れるとしか言いようがない上手さ。木管楽器がオケのサウンドをどれだけ豊かにするかを見せつけられたかのよう。何度聴いても素晴らしいオーケストラです。

これで今年の秋のコンサートは終了。どのオケの演奏も素晴らしく、素晴らしい音楽をたっぷり堪能させてもらいました。

ティーレマン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2019年来日公演

VPO201911


2019年11月11日
サントリーホール
【演目】
ブルックナー:交響曲第8番(ハース版)
(アンコール)ヨーゼフ・シュトラウス「天空の音楽」

ブルックナーの作品の中でも最高傑作と称され、ロマン派交響曲の中の代表作とされる交響曲第8番。そんな世評だけでなく、個人的にもブルックナーの最高傑作はやはりこの第8番。

この交響曲第8番を生で初めて聴いたのは4年半ほど前、ベルリン放送交響楽団での演奏。当時、ブルックナーの良さが分かり始めてきたときで、生で聴いて圧倒されてから僕はブルックナーの交響曲にハマってしまった。本当に好きな曲というのはやはり良いオーケストラで聴きたいと思う。ブルックナーと縁の深いウィーン・フィルで、そしてドイツ・オーストリア音楽を得意とするティーレマンで聴けるとなれば期待しないわけにはいかない。

いつも、どのオケの上手さ、あるいは足りていないところなど演奏技量について書いてしまっているんだけれど、この日はそんな次元の話ではなかった。どのパートも素晴らしく、アンサンブルは見事、なによりもオケとしての音色と表現に圧倒的な説得力がある。オーケストラ音楽というのは技量の良し悪しを見極めることがその楽しみ方ではなく、オケが何を表現して、曲をどこまでの次元に持っていけるかというものが問われ、それを堪能するという当たり前のことを思い知らされた。

もちろん、他のオケのブルックナーだって素晴らしい演奏はあるに違いない。でも、この日の演奏は、美しさ、激しさ、音色、気品、誠実さなど他に代えがたい唯一無二の演奏だったことだけは言える。こんな演奏はそう何度も聴けるものじゃないだろうと思わせる、オーケストラ音楽のひとつの頂点にあったんじゃないかと思う。それは演奏を終えたあとのティーレマンの、やりきったという充実感に溢れた表情にも表れていた。

通常はあまりブルックナーの大作のあとにやらないアンコール。僕もこの第8番を聴いたあとにアンコールをあまり聴きたいとは思わないんだけれど、ウィンナー・ワルツをウィーンフィルで聴く体験もまた特別なものだった。

こういう演奏を体験できるからコンサート通いはやめられないのです。


ネゼ=セガン指揮 フィラデルフィア管弦楽団 2019年日本公演

ネゼ=セガンPO201911

2019年11月4日
サントリーホール
【演目】
チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲(リサ・バティアシュヴィリ)
(アンコール)マチャヴァリアニ:ジョージアの民謡よりDoluri
マーラー: 交響曲第5番

コンサート通いを続けてきて振り返ってみると、評価、知名度が高いオーケストラというのはやはりレベルが高いなあと改めて思う。そして、チケット代も概ねオーケストラの技量に比例しているように感じる。もちろん技量だけでなく、オケが持っている音色や個性もあるので、何でもかんでも知名度とお値段でコンサートのデキを測れるというものではありませんが。

一方で、過去の評価やチケット代ほどの演奏ではなかったなあとガッカリしたコンサートというのもあります。

その最たるものが、3年前に観たフィラデルフィア管弦楽団。メインはブラームスの交響曲第2番だったんですが、弦は歌っていないし木管金管も特に感じるところもなく、今となっては、眠くなったこと以外にはほとんど思い出すことができないコンサートでした。バイエルン放送交響楽団を初めて観たときも「あれ?こんな程度なのかな」と感じて、でも2回目に観たときは生涯忘れられないような素晴らしい演奏だったということがあったので、フィラデルフィア管弦楽団ももう一度聴き直してみよう、と思ってチケットを入手。

まず、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は奇しくも2週間前の樫本大進とチェコフルで聴いたばかりとあって聴き比べとなった(チケット発売時にはプロコフィエフだったけどプログラムが変更された)。リサ・バティアシュヴィリは、ジャニーヌ・ヤンセンと並んで現在トップクラスのスター・ヴァイオリニストとあって期待が膨らみます。

まず、オケの鳴りが違う。音の厚み、切れ味、正確さ。バティアシュヴィリのソロはさすがで、溜めるところ、突き進むところ、歌わせるところ、濁らせるところなどの使い分けが巧みで尚且、全体を通して聴いても流れが自然で表現に一貫性があるところが素晴らしい。ルックスが良いスター奏者だからそこそこの演奏なのかも、という事前に勝手に想像したたことに申し訳なさすら感じてしまうほどの圧巻の演奏。そもそもこのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、曲こそわかりやすくてシンプルではあるけれど、ソロ・パートは他の有名協奏曲(メンデルスゾーン、ブラームス、シベリウスなど)と比べても表現の自由度が高く、奏者の底力が試される曲で、それ故に実力を見せつけられた感じ。協奏曲はオケの音量を絞るのが一般的ですが、オケもパワー全開で、それでも存在感がまるで薄れないところが圧巻。申し訳ないけれど、2週間前に聴いた曲と同じとは思えないほどの違いがありました。

(誤解なくように付け加えておくと、樫本大進はコンチェルトのソリストとしては物足りなかったとしても別の世界で十分良い仕事をしていて応援しています。チェコフィルも技術やパワーで聴かせるオケではなく、独特の緩く穏やかで温もりのある古風なスタイルが持ち味であり、単純にどちらが優れているという話ではありません)

続くマーラーの交響曲第5番も、豪華絢爛で圧倒的な音量(過去に聴いたどオケよりも爆音だった)のオケが本領を発揮。弦の歌いっぷりは見事で低弦は厚みたっぷり、金管木管も安定していて安心して爆音に身を任せられる演奏。ネゼ=セガンの、溜めるところを溜めすぎな大見得を切る演奏にバタ臭さを感じさせるものの、エンタメ味を横溢させる綺羅びやかなサウンドに合っているのも確かで、とても楽しめる演奏でした。

さて、そうなると3年前のパッとしない印象は一体何だったのか。当時はまだ演奏の良し悪しがあまりわかっていなかったということなのか。それとも虫の居所が悪かったのか。席が悪かったのか。はたまた、本当に演奏が良くなかったのか。指揮者もオーケストラも同じだというのに、こうも違うものなのかと思わされました。過去の評価でチケット代ほどではなかった、だなんて偉そうなこと言ってすいませんでした。

繰り返しになりますが、それにしてもバティアシュヴィリのコンチェルトは素晴らしかった。オケの分厚いバックアップ、それに負けないソロの見事な歌いまわし。こんなに素晴らしいバイオリン協奏曲を聴ける機会はそうないでしょう。今年は、五嶋みどりでシベリウス、ユリア・フィッシャーでブラームスの素晴らしい演奏を聴くことができて、締めはバティアシュヴィリと女性ヴァイオリニストの素晴らしい演奏を聴くことができた素晴らしい1年だったと幸せな気分に浸っています。

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